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ここもロクの小屋

更新がない日のつぶやきとか備忘録
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70個目 

 週末は冬の寒さだそうですね
 寒い寒い言っていたら、すぐ暑くなるんだろうけれども、この寒さはこたえますね。

 

 さて、昨日から苦戦した70個目

 


 自分でもそういうものだと思っていてそのつもりだった。当然すぎて改めて考えることもなかったくらいだ。それなのに、いやだからこそなのか、人の口から出るとそれは深く胸に刺さった。まるで太いつららのように冷え冷えと残っていつまでも溶けてくれない。
「ハワードは親父さんの会社継ぐんだろ?」
 それぞれが進路を考え出す時期になって、自然話題もそうしたものになる。クラスメートは少しも疑うことなくそう言った。俺のこと雇ってくれよと続いた冗談は、多分に本音が混じっている。やりたいことが見つかっている者も、そうではない者も、抱える不安はきっと同じだ。学生の間はやるべきことが誰でも同じように用意されているが、そこから先はみんなバラバラ。どうなるかわからないということが、楽しみであると同時に恐くもあるだろう。
 でもハワードの将来は安泰だ。ここから先もきちんと用意されている。いいよなあとみんながうらやましがるのも無理はない。ハワードは恵まれていて、恵まれているということを自分でもわかっていて、そしてそれを受け取ることにためらいや不安はなかった。
 だからクラスメート達がそう思っているように、口に出したように、ハワードは自分が父の跡を継ぐのだと思っていた。それを疑問に思ったことなどなかった。そういうものだとそれが当然だと、改めて考えることすらなかった。
 それなのに、今さら感じる、この居心地の悪さはなんだろう。
 本当に、このまま用意されているところへ、そのまま進んでもいいのだろうか。
 悪いはずはない。だってハワードはハワードJr.なのだから。
 ハワード以外の誰がそこへ進むというのか。ハワード以外は誰もいないのだ。ハワードはこの道を行かなければならない。
 それなのに、自分はこの状況の一体何を、悪いことのように感じているのだろう。 
 身近な連中はほとんど相談相手には適さなかった。将来の話ということになると、「宇宙を股にかけるスペースメカニック」だの「宇宙開拓技師」だの、目を輝かせて自分の夢ばかりを語るからだ。何も口に出さないやつもいるにはいたが、そいつは目で「お前に話すつもりはない」と言うのでもっとタチが悪い。つもりがないということは話せる内容はあるってことだ。もったいぶるのもいいかげんにしろと心底腹立たしい。
 どちらにせよ、自分の夢の話のことしか考えていないということになるので、相談相手にはならない。ほとんどの連中は、ハワード自身もそう考えているように、ハワードの将来は決まっていると思っているので、ハワードの話を聞いてくれない。
 勝手な連中だとハワードは憤ったが、同時に仕方がないと思い直す。用意されている道がない者に、ハワードのように恵まれた立場にある者の気持ちはわからなくても、それは仕方がないことなのだと。
 ハワードと同じように恵まれた者というと、すぐに浮かぶ顔がある。
 あまり弱みを見せたくない相手ではあったが、他に適した者はいなかった。それに、これ以上抱えてはおけないくらい、胸の冷たい違和感が大きくなりすぎていた。
 クラスメートなので、探さなくてもすぐに見つかる。ただ、いつも誰かがそばにいてなかなか話しかけることができない。何度も機会をのがしたハワードは、ようやくその相手が一人でいるところを見つけたので、思わず大きな声で呼び止めてしまった。
「メノリ!」
 振り返った顔は笑顔ではなかった。ハワードが来たというだけで面倒がるような顔をするところがしゃくに障る。しかし、今はそれを咎めている場合ではないので、ハワードは早速本題に入ることにした。
 それでもどうしても弱みを見せたくなかったハワードが口にしたのは、自分のことではなく相手のことだった。自分が悩んでいるとか、迷っているとか、そう思われるのは嫌だったのだ。
「メノリは議員になるのか」
「そのつもりだ」
 即答だった。不機嫌そうに顔をしかめているのは、いきなり何だと言いたいのかもしれない。わざわざ大声で呼び止めておいて、こんな決まり切ったことを尋ねるなんて。
 ただ、ハワードが話したいのはその決まり切ったことについてなのだ。メノリが不審がろうが、即答で断定されようが、ここで話を終わらせるわけにはいかない。
「嫌じゃないのか」
「嫌?」
「そんなふうに決まってるのがさ」
「何が決まっているんだ?」
「だから!」
 要領を得ないメノリの返答に苛立ち、ハワードの語気が強くなる。メノリはハワードと同じ立場なのだから、わかってくれてもいいはずだ。
「メノリのパパが連邦議員だから、メノリも連邦議員にならなくちゃいけないってのがさ」
 嫌だとは思わないのかと荒くなったハワードの鼻息を、メノリはため息で受け止めた。
「別に決まってなどいない。なれると決まったわけでもない」
「でも、パパがそうだからなろうと思ったんだろう?」
「どうしてそうなる。私は私の意志で連邦議員を目指すと決めたのだ」
 メノリは本当に面倒になったのか、言い終える前にきびすを返した。
「待てよ!」
 引き留めようと慌てて手を伸ばす。しかしメノリは肩にかかりそうになったハワードの手をかわして、顔だけで振り返った。
「私が議員を目指すのは、私自身のやりたいことのためだ。繰り返すが、決まっていたことなどない」
 行き場を失った手をもてあまし咄嗟に声が出ないハワードを一瞥して、メノリは顔を戻し、今度こそ歩みを再開させた。
「お前も自分で決めるんだな」
「決めていいのか……?」
 呆然とつぶやいてもメノリは振り向かなかった。規則正しい足の運びを止めることなく、メノリは行ってしまった。

 けれど、もう一言だけハワードのところに届いた。
「決めないでどうするんだ」
 突き放すような、あるいは馬鹿にしているような冷たい物言いは、やはりしゃくに障る。
 しかし、胸のあたりに冷え冷えと居座っていたものが、少し小さくなっていることがハワードにはわかった。
 まだ残っているけれど、これを溶かすにはどうしたらいいのか、もう自分はわかっているとハワードは思った。

 

070 自由
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メノリ△~!とか思っているうちに、ハワードは自分の恋心にも気づく――多分。
そして、パパに「会社継げないごめん」とか言いにいったら、「お前に継がせようなんてこれっぽっちも考えてない」って言われるんだきっと。

 

それはそれとして、自由っていうと「職業選択の自由」が浮かんじゃう私はとあるCM世代

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