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書けるときに書いておく 

 月初は絶対書いている暇がないので、書けるうちに

 

 お題3つめは遙か3で。短いです


 

 

003 動物

 

「うわ~かーわーいーい」

 テレビ画面に映る、犬の赤ちゃんがよたよたと歩く姿に、望美は顔と声とをとろかせた。

「いいなあ。欲しいなあ」

 たまらないというように息を漏らして、でもうちはお父さんが反対するからと残念そうにつぶやいた。

「そういえば子供の頃、よく犬が欲しいって言っていましたね」

 声をかけたのは譲で、彼も望美に負けないくらい相好を崩している。ただその視線はテレビ画面からはややはずれている。

「そう。でもそのたびにダメって言われて」

「それで、うちで飼えないかって言ってきたことがありましたね」

「あーそうだったね。わがまま言ったね、ごめん」

「いえ、いいんですよ」

 今さらだし、それにいつものことだし、そして何より望美のわがままは譲にとってなんの負担にもならないのだし、というかむしろ、わがままを言ってもらえる方が幸せなのだし。

 という言葉は胸の内に置いておき、譲は会話を続けた。

「あのときは、兄さんが反対したんですよね」

「そうそう。誰が面倒みるんだって言って。自分はめんどくさいからやらないぞ、なんて。冷たいよね」

「でもきっと、実際に飼い始めていたとしたら、一番可愛がったのは兄さんだと思いますけどね」

「そうだね」

 冷たいと言って尖らせた口をほころばせてうなずくと、望美はふと首をかしげた。

「譲くんは?」

「え?」

「譲くんは、犬を飼いたいと思ったりしなかったの?」

「俺ですか?」

 譲は少しの間考え込んで、ありませんと言った。

「そうなの? どうして?」

 譲が動物嫌いだなんて情報は、幼なじみの望美の中にはない。子供にも動物にも優しいということは知っている。嫌いじゃないなら、一度くらいは考えたりしなかったのだろうか。

「どうしてと言われても……」

 重ねて問われ、譲は軽く眉を寄せた。言われてみればなかったなというくらいのもので、意識したことがないものを改めて言葉にするのは難しい。あえて理由をつけるのならば、それは……。

 

 先輩がいますしね。

 

 という言葉は胸の内からこぼれてしまっていたらしい。

 たちまち望美のほほがふくらんだ。

「なあに、それ。私が犬みたいってこと? それとも私の面倒をみるのが大変だからっていうこと?」

「ち、違いますよ」

 慌ててなだめにかかるも、一度悪くなった女の子の機嫌をとるのは難しい。あれこれ言葉を尽くしても、あまいもので釣ってみても、望美のほほの空気が抜けないので、困り果てた譲はぼそりと先ほどの言葉の真意をつぶやいた。

「え? なんて言ったの?」

 そっぽを向き続けていた視線をようやく戻してくれた望美は、けれど、つぶやきを聞き取れたわけではないらしく、申し開きのやり直しを要求してきた。

 譲は眼鏡を直す振りをして耳まで赤くなった顔を隠すと、せっかく望美が合わせてくれた視線をはずし、声をしぼりだした。

 

「可愛いのは先輩だけで充分ですから」

 

 テレビでは子犬の映像が流れ続けていたのだが、それを見ているのはもう誰もいなかった。

 

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