ここもロクの小屋
58個め
風邪が悪化しました。
鼻水は色がつくし、その上つまるし、のどが痛くて声がでにくいし、頭は痛くて、おなかまでゆるくなるし。
これは完璧風邪だね。先生の見立ては正しかったね。
でも薬出してもらったのに、全然効かないやんか……。風邪の分も出すねって言ってたのに。
せっかくのお休みなのに寝て過ごしています。
ちょっと元気になったので58個目。ヒカルの碁。
仕事で少し遠出をした。立ち寄った町でそれを見つけた。
誰かの家の塀に貼られた花火大会のポスター。
そのポスターは色紙に黒一色で刷られた素朴な作りで、花火大会といってもたいした規模ではないのだろうとすぐにわかった。
それでもヒカルの目にとまったのは、その日付のせいだ。
その日なら行けると思った。
行けると思えば、すぐに浮かぶ顔がある。
問い合わせをして、チラシまでもらったヒカルを見た同行者はにやにや笑って行った。
「あかりちゃんと行くのか?」
その言葉の内容にも、口調にも、表情にもヒカルはむっとした。
「いいだろ。なんでも」
同行者はにやにや笑いを崩さなかった。
ヒカルは腹の虫が治まらなかったので、むっとしたまま言った。
「あかりって呼ぶな」
「だって、あの子の名字知らないし」
にやにや笑いのまま悪びれずに、お前が紹介してくれないからとそんなことまで言う。ヒカルがあの子をあかりと呼んでいるのを聞いたことがあるだけ。だからそう呼ぶしかないのだと。
「ちゃんと紹介してくれたら、ちゃんと呼ぶよ」
誰がお前なんかに、とヒカルはそれ以上取り合わないことにした。
今日がその花火大会の日だ。
しかし、ヒカルは自分の部屋で寝転がって、もらってきたチラシを眺めている。
「その日はゼミの合宿があるの」
今にも泣き出しそうな顔で、あかりはヒカルの誘いを断った。
役が当たっているから、どうしても行かなくてはならないと。
あかりがいないのに、一人で行く気には当然なれない。チラシは無駄になってしまった。
せっかく誘ってやったのにと、少しばかり腹立たしい気分がある。けれど、ちゃんと理由があってのことなのだし、あかりが本当に申し訳なさそうにそして残念そうにしていたので、本気で怒っているわけじゃない。それに、いつもなら立場は逆なのだ。あかりの誘いをヒカルが断ることの方が、ずっと多い。ヒカルが断られたのは、考えなくてもこれが初めてのことだった。
あかりはいつもこんな気分を味わっていたのだろうか。
ヒカルは手の中のチラシをくしゃくしゃに丸めると、ゴミ箱に向かって投げた。
紙くずはゴミ箱のふちにあたって跳ね返り、部屋の隅に転がった。
058 花火
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なんのひねりもないお題消化
いくらでも面白くなりそうなお題なのにな。力不足ですがくり。