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私の手柄じゃないけど 

 普段離れて暮らしている妹が帰ってきました。
 サンホラライブに妹も参加してたとかで、感想を聞きました。

「宝塚娘役トップってさすがだと思った」

 と言ってました。動きの一つ一つが綺麗で目をひくし、歌もうまくてよく通るし、すごいなーって思ったそうです。

 そうだろうともと大きくうなずいて聞いていました。私が偉いんじゃないってわかってるけど、でもなんだか鼻高々な気分。
 かなみさん、サンホラの次の地平線にも参加してくれないかなあ……。
 それか、サンホラの作品のどれかを宝塚で舞台化ってどうですかね。聖戦と死神あたりどうでしょ。

 

 それはそれとしてお題は37個目。目次ページも更新しないとな。


 待ち合わせ場所に現れたヒカルがあかりを見て首をかしげた。
 その理由は、あかりにはわかっていたので、別に傷ついたりはしなかったのだけど、あかりの足の先まで視線を流したヒカルがその後何も言わずに歩き出したとき、あかりは少しだけがっかりした。
 本当は「何も言わなかった」は正確な表現ではなくて、一応「じゃ行くか」とは言ってくれたのだけど、あかりが待っていたのはそんな言葉じゃなかったので、あかりはやっぱりがっかりしたのだった。
 前を行くヒカルを追いかける。気を抜くと遅れてしまうのであかりはがんばって歩いた。
 別にヒカルが早足なわけじゃない。今日はあかりの足が少し遅いのだ。
 ショーウィンドウに映る二人の姿を見ると、いつもより少しだけ身長差が縮んでいる。
 今日のデートのために下ろした靴は、いつもより少しだけヒールが高い。
 慣れない高さがあかりの歩みを少しだけ遅らせる。
 やっぱりやめておけばよかったかなあ。
 転ばないように注意しながら歩くのは、思っていたよりずっと骨の折れるものだった。ヒカルはあかりといるときは普段よりゆっくり歩いてくれるので、見失うことはない。でも、せっかくのデートなのにヒカルより自分の足元が気になるなんて、ずいぶんともったいないことをしているような気がしてきた。
 ショーウィンドウに映る自分の姿に目をとめる。
 いつもより少しヒールの高い靴。服装もちょっと大人をイメージしてみた。お化粧もしている。
 すでに大人と同じ世界でがんばっているヒカルに少しでも近づきたくてしてみた、精一杯の背伸び。
 がんばった甲斐あって、似合っていないとは思わない。
 自分で言うのも何だけど、結構綺麗に仕上がったんじゃないかと思う。
 だけど。
 見た目だけどうにかすればいいってものじゃないよね……。
 あかりはひとつため息をついた。
 ふと顔をあげると、ヒカルの姿が見えない。目を離している間に、置いて行かれたらしい。
 あわてて身をひるがえし、大きく一歩を踏み出す。
 いけないと思ったときには遅かった。いつもより少し高いだけのその高さがあだになり、あかりは派手にころんでしまった。
 幸い、たいした痛みはなかった。ヒールも無事。服の汚れも払えば落ちる程度で済んだ。
 けれどあかりはすぐには顔を上げられなかった。
 恥ずかしい。
 人前で転んだこともそうだし、気合いを入れて整えた服装の結末がこれというのがあまりにお粗末で、顔が赤くなるのを止められない。
 涙がにじむのに任せてため息をついていると、頭の上から聞き慣れた声が降ってきた。
「何やってんだ?」
 誰かは見なくてもわかる。
 赤くなっている頬と目を見られたくなくてあかりが顔が上げられずにいると、目の前にすいと手が伸びてきた。
「大丈夫か? どっか痛いのか?」
 その声が本当に心配そうなものだったので、あかりは慌ててその手をとって立ち上がった。
「ううん。大丈夫。ごめんね」
 痛くないと首を振ってみせる。うつむいたままなので、ヒカルの顔は見られない。だからヒカルがどんな表情をしているのかはわからなかったけれど、ヒカルがため息をついたのが聞こえた。
「その靴歩きにくいんだろ?」
「……ごめん」
 ヒカルがどんな顔をしているのか確かめるのが恐くて顔が上げられない。きっとひどく呆れているのだろう。当然だ。無理して似合わない格好をしたあげく、転ぶなんてみっともない。
「謝らなくてもいいけどさ……」
 けど、なんなんだろう。
 ヒカルはそこで口ごもったまま、なかなか続きを言ってくれない。気になってそろそろと視線を上げてみると、ヒカルは顔をしかめていた。不機嫌に見えるその顔は、しかしあかりが心配していたように、怒っているというわけではなさそうだった。戸惑っているというか、気まずそうにしているようにも見える。
「ヒカル?」
 つないだままの手に少し力を込めて名前を呼ぶと、ヒカルはますます顔をしかめてそっぽを向いた。
「悪かった」
「え?」
「歩きにくそうだってわかってたのに、先に行って」
「そんなこと!」
 あかりは首を振った。そっぽを向いたヒカルには見えていないってわかっていたけれど、勢いよくはっきりと。
「歩きにくい靴はいてきた私が悪いんだし……」
「なんで?」
 するとヒカルはきょとんと目を丸くした。
「そういう靴は歩きにくいもんなんだろ? いいじゃん。似合ってるし」
 思いがけない言葉に今度はあかりが目を丸くする。
 ヒカルは顔をしかめ直してまたそっぽを向いた。
「今度は転ばないように気をつけろよ。……俺も気をつける」
 そしてヒカルは歩き出した。あかりの手をとったまま、いつもよりもっとゆっくりと。
「うん。ありがと」
 あかりも後に続く。ヒカルの手をしっかり握り直して。

 

037 靴
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 よくそんな靴で歩けるなあとか踊れるなあとか、人様の足元をみてよく思っています

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