ここもロクの小屋
後悔先に立たず
今さら考えてもどうしようもないことを、いつまでもいつまでもぐるぐる考えてしまう方です。
それで寝付けなくなったりもするんですけど、でも夜いくら考えたって、寝ようとしているような時間帯に打てる手ってないんですよね。それならさっさと寝て、朝になってから何かできる時間になってから考えた方がいいわけで。何かできる時間になっても、寝不足でへろへろしてたら、また何か失敗してしまいますものね。
明日があるって、割り切るのって大事ですよね。
わかってる。わかってるんですけどね。でもやっぱり考えちゃうんだよなああああああ。
昨日の宝塚公演、無理してでも、もう一回見てくるんだった!
……とか。
無理してたら今日動けなくなってて、やっぱり無理するんじゃなかったって言ってたと思いますけどね(笑
さてさて、こばなしは29個目です。
ヒカルとのデートは「彼の部屋で」というのが一番多い。
何しろヒカルは忙しい。学生のあかりとはなかなか時間が合わないので、遠出は難しい。
それにヒカルは対局が無くても勉強しなくてはいけないし、ひとたび対局があればくたくたになっているし、時間があるときは自分の部屋にいるのが一番楽なんだろうとあかりは思う。
だからお部屋デートに不満はない。
こうして二人の時間があるときに、一緒に過ごしてくれるのが嬉しいから、これで充分だと思う。
ヒカルの部屋はあかりにとってもなじみ深く、居心地のいいところだ。おしゃべりをしてもいいし、碁を教えてもらえることもあるし、転がって雑誌でも読みながら碁盤に向かっているヒカルを眺めるのも好きだ。
だからあかりは今日もヒカルの部屋でおかしをつまんだりしながら、特に不満を感じていたわけではないのだけれど、でもついつい視線が窓の外へ向いてしまう。
今日はいいお天気だった。
青空のところどころに雲が浮かんでいるが、それはどれも白くてふわふわの可愛いもので、雨を予感させるようなものじゃない。それらが風に流されていくのがとても気持ちよさそうで、あかりはついつい目で追ってしまう。
お部屋デートは嫌いじゃなくて、充分楽しいと思っていて、本当に不満なんかじゃないんだけれど。
だけどこんなに素敵なお天気の日は、ヒカルと一緒にお出かけしたいなあなんて、思ってしまうのだ。
視線を部屋に戻すと、ヒカルがクッキーを口に運ぶのが見えた。見れば、それが最後の一枚だった。
そのクッキーはあかりがお土産に持ってきたもので、小ぶりのお皿に山盛りにして出したはずだった。ついさっきまではちゃんと山盛りあったはずなのに。
あかりは思わず目を丸くした。
「もう全部食べちゃったの?」
「いいじゃん。オレに持ってきてくれたんだろ?」
「そうだけど」
文句があるわけじゃないけど、ちょっと食べるのが早すぎるんじゃないだろうか。
呆れるあかりの前で、ヒカルは悪びれずにごちそうさまと笑った。そうして笑顔のままヒカルは急に立ち上がった。
「じゃ、どっか行くか」
「えぇ!?」
唐突なヒカルの行動にあかりの語尾があがる。
ヒカルはあかりにも立つようにと促しながら、まさに今日の空のお日様のように、にかっと笑った。
「せっかくいい天気なんだし、どっか出かけようぜ」
差し伸べられた手をとってあかりも立ち上がる。
手をつないだまま外に出ると、部屋の中で眺めていた雲はとうにどこかに流されて、真っ青な空が広がっていた。
ヒカルが急に外出しようと言ったのは、あかりが外ばかり眺めていたのに気づいたからなんだろうか。あかりがあんまり外ばかり見ているから、かわいそうだとでも思ったのだろうか。
そうだとしたらちょっと申し訳ない。だけど、とても嬉しいとも思う。ヒカルがあかりの気持ちに気づいてくれて、そうしてあかりの願いをかなえてやろうと思ってくれたのなら、すごく嬉しい。
でももしかしたら、あかりの視線になんて全然気づいていなくて、単にいい天気だからヒカルも出かけたくなっただけなのかもしれない。自分が行きたくなったから行こうっていっただけなのかもしれない。
そうだとしてもやっぱり嬉しい。だって、ヒカルもあかりと同じ気持ちだったっていうことだから。
雲一つ無い青空の下、あかりはヒカルの隣でご機嫌だった。
029 晴天
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拍手で「ヒカ碁が読みたくて」とメッセージをくださったあなたさまに捧げます。