ここもロクの小屋
しくじった
下手ですが、編み物もします。
ティシュカバーを作ろうと思いました。壁からつるせるようなのがいいなと思ってました。
ここのところかぎ針編みばかりしていたので、棒針で編もうと思いました。
もこもこした方がかわいいかなと思ってゴム編みをしました。
ゴム編みって名前の通り伸びるよね。
ティシュ箱って、結構重いよね。
つるしたりすればびよ~んってなるに決まってるよね。
途中で気づいたけどそのまま編み通しました。
びよ~~んってなっています。
昔からあまり先のことを考えない生き方をしています。
小話は41個目。先の長さを考えなければ、そのうちゴールは見えるかと。
宇宙開発が盛んな時代。
手書きの書面をやりとりすることはほとんどない。さらに手書きでなくても文字のみのやりとりということ自体が少ない。手紙といえば、メールのことであり、メールとは本人が話す姿をとった動画のことを指すようになっている。
そんな時代の、これはお話。
ほんの少し。指でひとつまみできるくらいの量なのに、どういうわけかそれは頑固で、どんなにブラシを通しても、ドライヤーをあててみても、なかなかハネが直らない。どうして自分の髪なのにこうも言うことをきかないんだろう。もっと高性能の自動整髪器を買うべきだろうか。
ルナは小さくうなり声を上げながら鏡をにらみつけ、ブラシを握り直した。
「なあ、ルナ」
「何!?」
目下真剣に格闘中。そこに割り込んできた声に対する答えは、どうしたって尖ってしまう。鏡から目を離さずに、それでも一応返事だけはすると、続いて聞こえてきたのはため息だった。
「メールするんちゃうんか? いつまでそうしてんねん。もう1時間は経過したで」
「わかってるわよ」
呆れているということを隠そうともしないチャコに、イライラと言い返す。
メールしようと思っているからこそ、こうして格闘しているというのに。時間がかかっていることくらい、自分だってわかっている。
「もういいかげんにせんと、ぼちぼちシャワー浴びて寝る時間やろ? 明日の仕事に差し支えるで」
「うそ!」
仕事を持ち出されて、ふと我に返り時計を見る。すると確かにそろそろいいかげんにしないとまずい時間になっていた。メールだってすんなり作成できるとは限らないのに、これ以上鏡の前から動けないでいるのは本当にまずい。
でも、このハネをそのままにしてメールするなんて。
鏡の中の自分は、眉の下がりきったずいぶんとなさけない顔をしている。
こんな顔でメールなんてできない。
「それにしても」
続いて聞こえてきたチャコの声が、それまでの呆れたものから笑いを含んだものに変わったので、思わず鏡から顔を外して振り返る。すると、声の響きにたがわず、チャコはにやにやと妙な笑いを浮かべていた。
「なんでそんなに気合いいれてるんや? 昨日シャアラにメールしたときはそんなに鏡なんか見てへんかったのに」
言われて一瞬体が固まる。確かに、昨日はそうだった。
もちろん、昨日だって鏡は見たし、ブラシも握って、髪とか色々整えた。自分の姿が相手に見えるのだから、あんまりだらしない姿で写りたくはない。
でも、確かに、昨日はここまで時間をかけなかった。
昨日と今日と違うことは、なんだろう?
「だって、昨日は、髪、ハネてなかったし……」
もごもごと言い訳をしながら、どうして言い訳してるんだろうと自分で自分が変だと思う。
なんだかひどく居たたまれないような、恥ずかしいような気分になっているのは、それは多分、チャコがおかしな顔をしているからだ。にやにやと、何かをおもしろがっているような顔をするから。
でもチャコは何をそんなにおもしろがっているんだろう。
ぐるぐると考えが回り出して動けなくなってしまったルナを、チャコは一通り眺めた後で、わざとらしい大あくびをした。
「まあ、ええけどな。ウチは先に休ませてもらうで。あんたの気の済むようにしたらええけど、責任は自分で取りぃや」
寝坊しても知らんで、ということなのだろう。
ドアの向こうに消えたチャコの背中を見送って、ルナは結局ブラシを握り直した。
ドアの向こうではチャコが収めたばかりのにやにや笑いを復活させていた。
メールするのにめかし込むようになるなんて、あのルナにしてみたら大進歩や。
でもあの調子では自覚すんのにまだまだかかりそうやな~。
きっと星の向こうでは、なかなか届かないメールにやきもきしているあいつがいるのだろうと思うと、チャコのにやにや笑いはいっそう深くなるのだった。
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041 手紙