ここもロクの小屋
根が
根が暗いと書こうとしたらnegativeが変換候補に出てきました。
あながち間違ってはいない。
書こうとしていたネタは忘れました。
お題の方は36個目
カオルが自分を尋ねてきてくれたことはあるけれど、自分がカオルを尋ねるのは初めてだった。
一つ処に腰を据えるのと、あちこちを飛び回るのと、それぞれの職業上の性質を考えれば当然なのに、初めてだと改めて考えると緊張してしまう。自分が任地を離れるそのときが、カオルが社内にいるという珍しいタイミングに重なった、そんな幸運がもたらした初めてだった。
受付でカオルの名を告げて、呼び出しをかけてもらう。
「ご関係は?」
「友人です」
そう答えるときに緊張のせいで声が少しうわずってしまった。
受付の女性がいぶかしげに眉を寄せたように見えた。多分、不自然にうわずった声のせいなのだろう
それとも自分は「カオルの友人」には見えないのだろうか。
――見えないのかもしれないなあ。
自分で出した疑問に自分でうなずいていると、当のカオルが現れた。
こちらの姿を認めたカオルの表情が柔らかくなったことで、さっきまでの妙な緊張も和らいで自然と口元がゆるむ。
視界に入った受付の女性がなんとなく嬉しそうに華やいで見えたのは、多分同じものを見たからだろう。カオルが髪を切って以来、クラスの女子もこんな顔をよくしていた。
そんな懐かしいことを思い出していると、カオルが目の前まで来ていた。
「久しぶりだな、ベル」
「元気そうだね、カオル」
差し出された手をしっかりと握りかえして笑顔を交わす。会うのは数ヶ月ぶりだった。
コーヒーを間に置いて近況を報告し合ったりした後で、ベルはなんとなくさっきのことを口に出した。
「カオルの友人ですって名乗るときに、実は少し緊張したんだ」
カオルは眉を寄せて軽く首をかしげた。
「いや、単に初めてだったからさ。カオルはよく尋ねてきてくれたけど、俺が来るのは初めてだろう? そう思ったらなんとなく、ね」
「ああ」
そういうことかと軽く笑ったカオルにうなずいて、それから、と続ける。
「ちょっと思い出したこともあるんだ」
「思い出す?」
「うん、こんなふうに緊張したことがあったなって。緊張っていうのはちょっと違うかもしれないけど、カオルは俺のことを友達だって思ってくれるだろうかってそんな心配をしたことがあったんだ」
「そう、なのか? いつ?」
「いつ……うーん。いつって言えばいいんだろう。そんなはっきりとした思いがあったわけじゃないんだ。でもなんとなく、漠然とした不安っていうか、友達って名乗ってもいいのかなあって、自信がなかったんだ」
きまりが悪そうに頭をかきながら、ベルはカオルに尋ねた。
「カオルは、いつから俺のこと友達だって思ってくれた?」
するとカオルは眉間に深くしわをよせ、黙り込んだ。
その表情のまま考え込んだカオルの姿に、ベルの目尻が下がる。
カオルは本当に真面目だなあと思ったのだ。
真面目で、そして誠実で、俺にはもったいないくらいいい友達だなあと。
「わからない」
長い時間考え込んで、けれどカオルの答えは短かった。
「意識して考えたことがない」
すまなそうに軽く首を振ったカオルに、ベルは微笑んだ。
「うん。実は俺もなんだ。俺も、いつから心配しなくなっていたのかよくわからないんだ」
自分から話題を振っておいて、なんともいい加減なことだとベルの方も申し訳ない気分だったのだが、カオルは怒らなかった。そうしてやはりすまなそうにしているベルに、同じように微笑んでみせた。
「そうか。それなら少なくとも今は間違いないということだな」
「え?」
「今は、お互いに友達だと思っているということでいいのだろう?」
「ああ、そうだね」
そうして二人は友達らしく、同時にコーヒーを飲み干した。
036 不安
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あんまりハワードにばかり頼るのもよくないなあと思うと、今度はカオルばかりになってしまう。
もっと偏り無く書きたいんですけど。
二人ともいじられキャラだから書きやすいんだよねえ。
そんなわけでベルに登場願いました。
結局カオルも書いてるけどな!