ここもロクの小屋
危険信号
今日は熱中症を体験しました。
車の運転を長時間しなくてはならなかった上に、降りて訪問した場所もろくに冷房のかかっていない所ばかりで、汗がぼたぼたしたたり落ちる中、水分はしっかり取っていました。でも、飲んでいたのはお茶なので、塩分が足りなくなったらしく、ぼうっとしてふらつく、足がつりそうになる、胸が重くて苦しい、という状態になってしまいました。これって熱中症の初期症状ですよね。
幸い、やばいと思ったときに職場に帰れて、冷房が強めにかかっている部屋に行けたので倒れることはありませんでした。職場には塩タブレットも常備されているので、それをもらって塩分補給もいたしました。いやー塩の美味しかったこと美味しかったこと。
普段事務所で座って仕事をするだけなら、お茶で水分補給していればあとはお弁当の梅干しくらいで間に合うのですが、やっぱり外出するとなると、塩分も必要になるんですね。
みなさまもお気をつけください。
さてさて小話もなんとか15個目。
「ねえ、ルナとカオルさんって、学生時代からの知り合いなのよね?」
「そうだけど?」
「じゃあ、その頃から付き合ってたの?」
ルナはちょうど水を飲もうとしていたところだった。そこへぶつけられた質問に含んだ水を吹きだしかけ、それを必死でこらえ、結果盛大にむせた。
女性職員で集まってのランチタイム。忙しい仕事の合間に一息つける、貴重な時間なのだが、女同士の気楽さがこうした遠慮のない話題をもたらすので油断が出来ない。
「やだ、ルナったら。大丈夫?」
ルナをむせさせた相手は大げさに心配して背中をさすってもくれたのだが、ルナは恨めしげにその顔を見上げた。心配するくらいなら、いきなりそんなことを言わないで欲しい。
だが相手に言わせてみれば、この程度のことでそこまで驚かれても困るというところだろうか。女同士のそれも大人の恋バナなら、もっときわどい質問だっていくらでも飛び交う。いまはまあ、お昼だし、これでもずいぶん手加減しているというのに。
「で、どうなの? 付き合ってたの?」
だから相手はルナが落ち着くと質問を繰り返した。取り下げる気は毛頭無い。
「……付き合ってないわ」
しぶしぶルナは答えた。女性職員の中には恋人のいない人の方が少ないのだが、こうした話題の中心にひっぱり出されるのはたいていルナだった。なにしろカオルは職業上地球に足を運ぶ機会があり、みんなに顔が知られてしまっている。話の中でしか知らない他の恋人達より、話題にのせると面白いらしい。
とルナは思っていたが、実のところ、ルナの反応が初々しくて面白いからというのが周囲の一致した認識だった。知らぬは本人ばかりなり。
だからこの時も、最初の質問主以外のランチ仲間達がこぞって会話に加わってきた。
「それならいつから付き合いだしたわけ? まさかここに来てから?」
「そう、だけど……」
何がまさかなのかさっぱりわからず、ルナはおずおずとうなずいた。すると、キャーと一気に周囲が盛り上がった。何がキャーなのか今度もわからず目を白黒させているルナの回りを黄色い声が通りすぎていく。
「なんだあ、じゃあ、最初に会ったときはフリーだったんだ。それなら、狙っておけばよかったー!」
かしましい声は何重にもなっていたが、言っていることはだいたい同じでこのような内容だった。狙う対象は話の流れからいえば当然カオルで、「カオルを狙う」というのがどういう意味を持っているのかすぐにわかるくらいにはルナも成長していた。
「ちょ、ちょっとみんな!?」
冗談でしょうと腰を浮かしたルナの姿に、仲間達はぴたりと口をつぐんだ。そうして誰彼とも無く顔を見合わせると、次の瞬間一気に吹き出した。せっかく静かになった空間にまた騒々しい音が響く。
「冗談に決まってるじゃない」
「そんなに慌てなくてもいいのに」
「ごめんごめん。言ってみただけだって」
「ほら、座って座って」
けらけらと笑いながら謝られてもなだめられても、誠意が感じられない。むくれたルナはそれでも一応腰を下ろした。座らないとランチの続きが食べられない。
「ねえ、それじゃあ」
目尻に滲んだ涙を指でぬぐいつつ次の言葉をかけてきた仲間を、ルナはじろりとにらみつけた。そこまで笑わなくたっていいのに。
しかしそんなことで遠慮してくれるような間柄ではない。当然続きはあった。
「ルナは、学生時代、他の人と付き合ってたの?」
ルナは怒っていたことも忘れてぽかんとした。思いがけないことを言われましたとでかでかと書かれたその顔を見て、質問した方は肩をすくめた。まあそうだろうとは思っていたけれど、そんな顔をしなくてもいいのに。
「それじゃ、カオルさんは? ルナの前に付き合ってた人いるのかしら」
ルナのことは返事を聞かなくても分かったからと、別方向からあがった声にルナは目を丸くして、何度かまばたきをした。そうして少しの間固まった後で、ゆっくりと首をかしげた。
「さあ、どうかな。聞いたこと、ないわ」
「気になる?」
身を乗り出してきた友人の顔を見つめながら、ルナは自分の考えに沈んだ。その横でまた勝手に話が進む。
「パイロットの学校って、女性もいるわよね」
「別に女性パイロットも珍しくないし、当然いるでしょ」
「学校出てからだって、機会は多いんじゃない?」
「ていうと、やっぱり客室乗務員?」
「ありがち~」
やはり顔を知っているだけに想像もたくましくなるのか、仲間達の会話が途切れない。
カオルはパイロットに必要は知識と技術は元々持っていたので、ソリア学園を出た後は試験を受けるための準備をしたくらいで「学校に通った」と言えるような期間はない。職に就いてからも、あちこちの航路を担当してはいるが、客室乗務員が付くような大型の旅客船にはほとんど乗っていない。
だからみんなの想像力には感心するけど、みんなが思っているようなことはないだろうなと思って、ルナは顔を赤らめた。
そんなふうに考えてしまうあたり、自分は「気になっている」んだということに気づいて、恥ずかしくなってしまったのだ。
恋人の過去が気になるのは当然よと励まされたルナが、その後カオルにそれを尋ねたかのかどうか。それはまたいつかランチタイムの話題に上ることだろう。
015 過去
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このお題ならなんかシリアスなの書かなくちゃな、と思ったのに、こんなのが出来上がってしまいました。
だってサヴァイヴでラブが見たいって言われたんだもーんと言ってみても、ちっともラブになっていないので、言い訳になりませんな。またどこかのお題で、ルナに過去を問われるカオルの話が書けるかもしれません。なにしろあと85題もありますからな