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ここもロクの小屋

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芝居鑑賞 

 日曜日にミュージカルを見てきたので、感想を書こうと思ったのですが、お題小話を書いていたら時間切れになってしまいました。

 仕方がないので一言で。

 

 海外のコメディのノリを日本人が演じて、日本人が笑えるようにするのは、とても難しいことなんだなと思いました。

 

 さて、小話11個目。


「いいなあ、ルナは。スタイルがよくって」
 シャアラのつぶやきはなんだかとっても切実で悲嘆に満ちていたので、ルナは驚いて何も言えなかった。こういうときはとりあえず「そんなことないわよ」とか言えばいいのだろうけど、シャアラがそんなことをそんなにも気にしているなんてことも、自分のスタイルがよいというのも、考えたことがなかったので、とりあえずびっくりする以外ルナにできることがなかった。
「なんや、シャアラ。そんなこと気にしとったんかいな」
 だからしまったと思ったときにはもうチャコがしゃしゃりでてしまっていた。そんなこと呼ばわりされたシャアラが不満そうに顔をしかめる。
「だって、わたしは背が小さいし、手足も短いし、それに、……それに胸だって小さくて、子供っぽいんだもの」
 後半はやや言いにくそうに小さい声で、シャアラは胸の内を吐き出した。しかし、チャコはそれも笑い飛ばした。
「気にせんでもええ。あんたらまだ14(じゅうし)やろ? そんなもんこれからなんぼでも大きくなるわ。あせることないで。のんびり構えとき」
 チャコの口は非常に高性能でよくまわる。ルナがたしなめる前にこれだけの言葉が滑り出てきた。日頃レディーを自称する割にデリカシーに欠けるチャコの対応に、ああもう、とルナは肩を落とした。けれど、チャコが口にした内容自体はごく常識的なものだったため、ルナは叱るのを保留にした。何より「そうかなあ」と言ったシャアラの、口ぶりこそまだ不安そうなものだったけれど、表情はすこしほっとしたふうに変わったので、水を差すこともないかと思ったのだ。
 けれど直度にルナは後悔した。シャアラが安堵したのをチャコもまた確認したからこそ、チャコはにやりと奇妙な角度で口の両端を持ち上げて、余計なことを続けて言ったのだ。
「それにな、ルナは別にスタイルがええんとちゃうで。確かにあちこち出てきたかもしれんけどな、あれは単に太っただけや。まったくコロニーにおるときより今の方が太るなんて、コロニーでろくなもん食ってへんかった証拠やな。ほんまにうちがなんぼ言っても寝坊はするし、めんどくさいとか言って料理はせえへんし、その上……」
「チャコー!!!!」
 放っておいたらどこまでも続きそうなチャコの言葉をルナは大声で遮った。まったくこんなに嬉々として主人を貶めるロボットペットがどこにいるというのだろう(ここにいるのだが)。こんなときが一番活き活きとして見えるなんて本当に腹が立つ。
 顔を真っ赤にして頬をぱんぱんにふくらませたルナの姿を、けれどチャコは涼しい顔で受けとめて、さらにさらににやりと笑って付け加えた。
「太った太った騒いどったのはあんたやろ? ルナ? メノリが羨ましい羨ましい言うとったやないか」
 文字通りぐうの音も出ないルナは頬の空気を貯めたまま黙り込んだ。まったくもってそれこそが、シャアラに褒められても素直にうなずけない理由だった。
 最近あちこち丸くなってきていて、胸は確かに大きくなったように思うけれど、胸以外の所だって大きくなってきているので、とても自分のスタイルがいいなんて思えない。スタイルがいいっていうのは、メノリのようにバランスがよくすらりとした姿をこそ表すべき言葉じゃないんだろうか。
「確かにメノリもうらやましいわぁ。姿勢もいいし、スマートでかっこいいもの」
 険悪になったルナとチャコの様子を気にしているのかいないのか、シャアラがおっとりと割り込んだ。そして二人とも素敵だとため息をつく。メノリが話題に上ったことで、また自分の体型が気になりだしたのかもしれない。
「……そんなにいいとも思わないが……」
 それまで会話に加わらずに静観していたメノリが重い口を開いた。シャアラだけではなくルナにまで恨めしげに見つめられて黙っているのが辛くなったらしく、気まずそうに目をそらしながらぼそぼそと言葉をつむぐ。
「やはり、女性は柔らかなラインがあるほうがいいのではないか? 私はただやせているだけで、……スタイルが良いというのとは違うと思うが……」
 いつもははっきりすぎるくらいはっきりとした口調で明快な論理を展開するメノリなのに、こうした話題は苦手なのだろう。口ごもりながら、ようやくといったふうで、なんとかそれだけを言った。
 そしてそんななか、言いにくいことなど無いのはやっぱりチャコなのだった。
「なんや、メノリもおっぱい大きい方がええんか?」
 あからさまな言い方にルナはぎょっとし、メノリは面くらい、シャアラは真っ赤になってしまったが、チャコはもちろん自分の言葉に動じたりはしない。誰も何も言わない――いや言えないのをいいことに、性能の良い自慢の舌をフル回転させる。
「だから気にせんでもええって。そんなんなるようにしかならへん。気にしてもしゃあないやろ? それより女は腰つきや。大事なのは骨盤の形やで。それは生まれつきのもんやけど、三人ともいいもん持っとるから、自信持って大人になり。きっといい女になれるで。うちみたいにな」
 いい女の太鼓判をもらったはずの三人は本当にもう何も言えなかった。ただとにかく「(今)気にしてもしゃあない」というのはその通りだなと思ったので、それだけもらっておくことにした。
 けれどチャコの話はまだ終わってはいなかった。うんうんと満足そうに自分の言葉に自分でうなずいていたはずのチャコは、自分を置いて寝る支度を始めた三人の背中に向かって、いたずらっぽく眉をあげると「けどな」と言った。
「どーしても胸の大きさが気になるんやったら、方法がないこともないで」
 誰とは言わないが、その手が思わず止まってしまったのは、年頃の娘として責められることではないだろう。でもそれはチャコを調子づけてしまうには充分な反応で、チャコは機嫌よく講義を続けることができた。
「いっぱい触っていっぱいもむねん。あとは体操やな、こんな感じで」
 短い手足で実演する姿を見つめる三つの顔に浮かぶ表情が示すものは複雑で、あきれているのか感心しているのか期待しているのかは微妙なところだった。ただ、口を挟んだのはメノリだった。
「根拠はあるのか?」
 なければ信用できないという姿勢はいかにも彼女らしかった。とてもうさんくさそうにチャコの動きを追っている。
「あるで。刺激してやるとな、女性ホルモンが出て成長を促すねん。体操はおっきくなったおっぱいを支えるためのもんや。おっきくなったらええってもんちゃうしな。やっぱり形も重要やろ?」
 本当にこのロボットペットの情報は何を元にして何を目的に収められたものなのか、チャコのご高説にはさらにさらにさらに続きがあった。
「ほんまは惚れた男に触ってもらうのが刺激としては一番ええねんけど、あんたらにはまだはや……」
「チャコ-!!!!!!!」
 さっきの数倍大きなルナの声が、チャコの話をむりやり終わらせることになった。とりあえず今夜の所は。

 

「ねえ……、壁なんてあってないようなもんだって、誰か言ってきた方がいいんじゃないの?」

 

011 理想

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