ここもロクの小屋
夏だから暑いから
目次を作るとか言っていましたが、私が書いて私が読むだけなんだから、別に目次いらないんじゃない?とかって考えるくらいには暑いです。
目次が無くても誰も困らないというのは確かですが、だからって横着ばかりしていたら、ずるずると夏に負けるだけなので、やはり目次は作ろうと思います。
ともかく14個目。
トイレをもっといえの近くに、できればいえの中に作ろうと言い出したのは例のごとくハワードだった。
「いちいち出かけるのが面倒だろ?」
自分がそう思うのだからみんなもそう思うだろうという態度は相変わらずのものだったが、それでも傲慢より素直に針がふれるようになってきたあたり、ハワードも少しは変わってきたらしい。
「別に面倒ではない」
言下に切り捨てたのはメノリだった。それ以上とりあう気はないと口調でも態度でも言っている。
メノリがハワードの意見に同調しないのはいつものことだったので、ハワードはそれでめげたりはしない。他の人はぼくに賛成だろうと意見を求めたが、仲間はおおむねメノリ寄りであった。
「いえの中はどう考えたって無理だよ」
「スペースがないし、それに、臭いの問題があるで?」
「そうだね、いえの近くでも、臭いは上がってくるし」
「元々それがあるから、少し離して作ったのよね」
「畑から遠くなるほうが面倒だ」
「確かにいえに近い方が便利だけど、でもかえって使いづらいんじゃないかしら」
近くに作れるんなら最初から作っている。
それがわかっていてなんで今ごろそんなことを言い出すのかと、仲間達の視線は冷ややかだった。
「でも、でもさ、今は少し遠すぎるんじゃないか? もうちょっとでいいから近くにある方がいいと思うんだ」
「なんでそんなにトイレの位置にこだわんねん。はは~ん? さては」
なおも食い下がるハワードを、不審そうにねめつけていたチャコは、不意に何かに気づいたようで意味ありげに片目をつぶった。ハワードがぎくりと後じさる。
「ハワード、あんた恐いんやろ?」
「恐い? 何が?」
ぴんとこなかったらしいルナが首をかしげるのを一瞥してチャコはふふんと鼻をならした。
「夜中に起きてトイレに行くときに、真っ暗な中一人で行くんが恐いんやな。一人で行けへんのやったら、誰かについてきてもらい。なんならうちがつきおうたろか?」
「ち、違う!! ぼくは、恐くなんかないぞ!!」
「夜は確かに危険だよ。用心はした方がいい。よければ俺が一緒に行くよ?」
声が裏返ったハワードの様子をからかうこともなく、ごく真面目にベルがそう申し出たのだが、ハワードはあまりありがたがらなかった。
「だから、恐いなんて言ってないだろ!」
「そうやそうや。ハワードが恐いんは、何も危険な動物とかやない。それもあるかもしれんけど、ハワードが一番怖がっているのは、おばけ!! やろ?」
両手を体の前にだらりとたらし、目をむいて舌を大きく出し「おばけ」の部分だけ大声を出したチャコのふるまいは、ハワードの腰をぬかさせるには充分だった。へたりこんでしまったハワードをチャコはけらけらと指さして笑い、ルナがそれをたしなめた。
チャコの笑いは止まったが、ハワードは当然面白くないし、バツが悪いことこの上ない。顔を真っ赤にしてチャコの推測を否定し続けた。
「だから違う! だいたいおばけとか幽霊だとかそんなものいるわけないんだから……」
「それもそうだね」
真面目くさって口を挟んだのはシンゴだった。
やはりシンゴのことだから、おばけや幽霊など非科学的なものは信じないのかと仲間は思った。
しかし。
「この島ってさ、無人島でしょ? しかも昔、人が住んでいたって跡もないし。幽霊になる元がそもそもないんじゃないの?」
じゃあ、元がありさえすれば、幽霊はありなのか。
シンゴの学説に面食らったのは、ハワードも含む全員で、その日の話し合いはうやむやのまま立ち消えになった。
当然、トイレの位置は変わらなかったのである。
014 幽霊