ここもロクの小屋
77個目
乙女度強化月間、これにて終了。
本当は昨日更新したかったんですけど、久しぶりに21時まで残業だったので、仕上がりませんでした。
今日もお仕事でしたが、定時で帰ってきたので、最終日更新できてほっとしています。
今年の乙女度強化月間は、結局50の喧嘩~この77までで、うち64はお休み回だったから、27個ということになりますか。甘い話ばかりではありませんけど、全部カップリングを想定して書いたものなので、私比で乙女度強化は達成できたと思っております。
カオルナに始まりカオルナに終わる、乙女度強化月間となりました。
お楽しみいただけましたでしょ~か?
口数が少ないのは相変わらずだが、人当たりは格段によくなったカオルは、雑談というものにも参加するようになった。
「初恋は実らない」
そんな話を耳にすることになったのも、たわいのない話に付き合うようになったからだ。
それはただの俗説ということだったが、そのとき会話に参加していた人達はみなそれなりに共感するところがあるようで、確かにそうだとうなずきあっていた。
なんの根拠もないのに説得力があるということは、それだけそういう経験をした人が多いということだろう。ならば、自分もいずれその経験をした大勢に入ることになるのかもしれない。
「そのときだ」
「え?」
カオルの発言に脈絡がなさすぎるように思えて、ルナは目を丸くした。カオルは時々突拍子もないことを言ってルナを驚かせるが、今回は発言そのものに驚いたのではなく、単純に話の流れがわからなかった。カオルの言葉はルナの問いに対する答えなのだろうけれど、どういうことなのか意味がわからない。
ルナが目を白黒させていると、カオルはふ、と口元を緩めた。
「初恋は実らないと言われたときに、浮かんだのがルナのことだった。それで自分がルナをどう思っているのか気がついた。だからそのときだ」
カオルの言うことがようやく理解できて、ルナは顔をほころばせた。
「いつ、私のことを好きだと思ったのか」
それがルナの問いだった。ルナがそんなことを問うに至った経緯は、例によって女子会がらみなのだけれど、カオルはルナの事情を詮索することなく生真面目に考え込んだ。そうして出てきたのだが先ほどの「初恋は実らない」話だったというわけだ。
「じゃあ、私がカオルの初恋なんだ?」
知らず心も、声も弾んでしまい、ルナはカオルの顔をのぞき込むようにして見上げた。
カオルは一瞬気圧されたように目を見開いて、けれどすぐに穏やかに微笑んだ。
「そうなるな」
「でも、カオルは実ったのね」
「そうなるな。だが」
いたずらっぽく笑ったルナと対照的にカオルの笑みには苦みが混じった。
「そのときは、実らないのだろうと思った」
「どうして?」
「実らせようとも思わなかったな」
「どうして?」
その頃はカオルの思いにかけらも気がついていなかったので、ルナが怒る筋合いはないのだろう。でも、悟りきったようなカオルの物言いに、ルナはひどく悲しいようなやるせない気持ちになって、ついつい口調がカオルを責めるようなものになる。二度目の「どうして」はずいぶんときつく響いた。
けれど、カオルは目を伏せて微笑んだだけで、今度はルナの問いに答えなかった。
その代わり、ルナを見下ろして、ルナはどうなのかと問いを返した。
「ルナの初恋はどうだったんだ?」
「私?」
カオルからそんなことを尋ねられるとは思ってもみなかったので、ルナは目を丸くした。自分は尋ねたくせに勝手なものだが、本当に驚いてしまったのだから仕方がない。怒っているような気分だったことも忘れて、考え込む。やがて、ルナは照れたように笑って首を振った。
「私は実らなかったな」
「そうか」
ただうなずいて、けれどカオルは続けてこうも言った。
「どんな相手なのか聞いてもいいか?」
ルナはうなずいた。恥ずかしそうに笑ってカオルの腕にしがみつくと、そこに顔を隠したまま静かに口を開いた。
「お父さん」
そっとつむがれたルナの初恋の相手に、カオルはまたそうかとうなずいた。
「それは、かなわないな」
077 初恋
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カオルがルナへの思いに気づいたのは「串を折ったとき」ってのもアリですけど、まあこんな話になりました。
ラストのカオルの「かなわない」は、2種類くらい意味がとれると思いますが、どちらでもお好きな感じでどうぞ
乙女度強化月間最終話を「初恋」で締められたのは偶然ですけど、ちょうどよい感じでよかったよかった