ここもロクの小屋
46個目
これが今年最初だけど、最後にはしたくないなあ
サヴァイヴ星の人達にもらった宇宙船は、当然俺たちの銀河のものとは違うし、識別信号も出していないから、重力嵐を抜けるとすぐに発見された。
俺たちが誰か、ということを信じてもらうのには少し手間取ったけれど、そこからは早かった。何かを考える間もなく、俺たちはロカA2に降り立っていた。
俺たちが帰るということはすでに知れ渡っていたので、宙港は人でいっぱいだった。報道関係者とか、いろいろな所の偉い人とか、見物人とか、そしてもちろん、俺の家族がそこにいた。
仲間の背中を見ながら船のタラップを下りた。意識しないと早足になってしまいそうになるのを、なんとか抑えながら。
たくさんのカメラの間を歩いてようやく両親の前に立つ。目の前に立っても二人が消えないことに心の底からほっとして、でもほっとしたことで言葉が何も出てこなくなってしまった。
そのまま何も言えずにただ立っていると、父さんが俺の手をとってしっかりと握りしめた。
「おかえり」
そう言って俺の肩をたたく。
その感触にようやく俺は動くことができた。
父さんの手を強く握り返す。
「ただいま」
俺が笑うと、父さんとそして母さんも笑ってくれた。
「おかえりなさい」
母さんの目には涙が光っていた。
「いい修学旅行だったみたいだな」
俺の肩に手を置いたまま目を細めた父さんに、俺はゆっくりうなずいた。
フラッシュの嵐も落ち着いて、帰ることができたのはそれからずいぶん経った後のことだった。その間はもうあまり話は出来なかった。俺たちが戻ったことは――それも異星人の宇宙船で――本当に大変な出来事で、この後いろいろ話を聞かせてもらうことになるというようなことを、何度も言われた。それに、報道の人や見物の人からも次々に質問が飛んできて、とてものんびり話をするどころではなかった。
それでもなんとか帰れることになって、仲間と慌ただしい挨拶を交わし、三人で家路についた。
最初に歩き出したのは母さんだった。少しだけ遅れて父さんと俺がその後に続く。
ふと前に目をやって、俺は胸を衝かれた。
母さんがあまりにも小さく見えて。
こんなにも母さんの肩は細かっただろうか。
俺にとって母さんは、温かくて、優しくて、心から安心できるところだった。父さんとは少し違うけれど、でも同じくらい頼りにしていた。守ってもらっていた。
それなのに、その背中は本当に小さく見えた。
それで、今さらだけど、俺は後悔していた。
どうして、一度でも、帰らなくてもいいなんて思ってしまったんだろう。
ここへ戻らなくても仕方がないなんて言ってしまったんだろう。
あのときはそれが本当の気持ちだったけれど、今はその本気が心から辛かった。
「父さん」
絞り出した俺の声は震えていた。
「どうした?」
「……ごめん」
それしか言えなくてうなだれた俺の肩を、父さんは片腕を伸ばして抱きしめてくれた。何も言わずに力を込めて二度、三度引き寄せるようにして、そうしてから軽く背中を叩いた。やっぱり何も言わずに。
隣を歩く父さんの顔を見下ろして、俺は見下ろしているんだということにも改めて気づいて、唇をかみしめた。
涙をこぼすことだけはどうにかこらえる。
帰ってきてよかった。帰ってこられてよかった。
心からそう思った。
046 背中
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こういう話にしようってことは、11月の内には決めてたんですけど……