ここもロクの小屋
心の友
最近の心のなぐさめはゴーカイジャーのゴーカイシルバーです。
楽しそうに日々を過ごしているのがとても素晴らしいと思います。
やっぱり生きてるならあんなふうでいたいよねと思います。
そんなわけで明日も早起きをするのです。
全然関係ないけどお題は18個目。
遙か3の譲と望美。
軽く包丁を入れるとスイカはぱりっと割れた。中から現れた赤色の鮮やかさとみずみずしさに、譲は自分の見立てが正しかったことを知り、一人満足そうに笑った。
譲の立つ台所の目と鼻の先にあるリビングでは、望美がテーブルの上にチラシを広げて難しい顔をしてうなっている。譲がスイカを切り分けて持っていってもそれが続いていたので、譲は声をかけようかどうか一瞬迷った。
望美は譲の気配を感じたのか、ふと顔を上げると難しい顔のまま言った。
「ねえ、譲くんは、浴衣の柄っていうと何を思い浮かべる?」
「え?」
望美の唐突な発言には慣れている譲だったが、それでもすぐには答えられなかった。浴衣の柄なんて、普段の思考からは外れているのでとっさに出てこない。
スイカを乗せたお盆を持って立ったまま考え込んだ譲の脳裏を横切ったのは、赤くひらひらした夏の風物詩。
「金魚・・・」
「えっ? 金魚?」
「え、ええ。おかしいですか?」
金魚と繰り返した望美の語尾が高くなったので譲は戸惑いながらスイカをテーブルの上に下ろした。
だが望美は別に気分を害したわけではないらしく、スイカだと屈託なく笑うと一切れ手に取った。
「おいしい」
「よかった」
スイカがちゃんとおいしくて。
――先輩が笑って。
譲はほっと息をつくと望美の向かいに座った。
「金魚かぁ。でも金魚だと子供っぽくないかなあ」
スイカをかじりながら望美は前置きなく話題を戻した。女の子のそういう会話の流れに慣れている譲は戸惑ったりはしなかったが少し驚いた。
「あれ? もしかして先輩が着るんですか?」
「そうだよ。何だと思ったの?」
「……なんとも思っていませんでした」
譲は正直に答えた。浴衣の柄はと聞かれたので思いついたものをそのまま口にしただけなのだと。望美が着るのなら、もう少し考えただろう。第一、金魚というのは。
「子供の頃、先輩が着てましたよね。金魚の浴衣」
「あ、そうか。そうだね」
自分のことなのに忘れていたのが気恥ずかしいのか、望美は照れたように笑った。よく覚えてるねという言葉に、譲は曖昧にうなずいた。望美のことだったら、どんな小さな事だって忘れるわけがない。
「でもどうして急に浴衣なんですか?」
「もちろん、お祭りに着ていくんだよ」
何が不思議なのかと、望美は逆に不思議そうな顔をして答えた。だが、譲はやっぱりどうしてと思ってしまう。
祭りには毎年一緒に行っているのだが、望美はいつも普段着のままだ。浴衣を着ていたのは件の金魚の浴衣が体に合っていた頃だけ。大きくなってその浴衣が着られなくなってからは、暑いからの一言で浴衣の出番はなくなってしまった。
なのにどうして今年は着る気になったのだろう。
重ねて尋ねると望美はチラシを持ち上げて顔の前に持ってきた。そこから目だけを覗かせてだってと言った。
「だって、今年はデートでしょ? だから、その、がんばろうかなあって思って」
チラシの向こうに見える望美の顔はスイカよりも金魚よりも真っ赤だった。
譲はチラシを持っていなかったので、自分の手で自分の顔を覆った。でもきっと隠しきれていないだろう。熱を持った頬は耳まで真っ赤になっていることを示している。それでもなんとか、ゆるみきった口元だけは隠して、譲は言った。
「じゃあ、浴衣の柄は先輩が決めてください。俺は当日まで楽しみにしています」
「うん、楽しみにしててね」
答えた望美の声は小さかったが、ちゃんと譲の耳まで届いた。
018 金魚
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金魚→夏祭り→浴衣デートってことで譲望になりました。
ヒカ碁では浴衣ネタをもう書いたことがあったので。
サヴァイヴは浴衣があるのかどうかねつ造しきれませんでした。