ここもロクの小屋
忙しいときこそ
仕事ばっかりしていると荒みますから、ここぞとばかりに遊びの予定を入れたりします。
明日はアイスショーです。
8月には月組「アルジェの男」。
9月は雪組「仮面の男」(今気づいたけどタイトル……)とサンホラライブ。
までは確定。
7月は花組「ファントム」行きたかった~。体調が悪くて断念したのですが、今後の予定は断念しなくてもいいように体調を整えなくては。
台風以降わりと涼しいので、今はけっこう元気なのですが、また暑くなるのかなあ。
さて、22個目はヒカルの碁(ヒカルとあかり)です。
玄関の前であかりは深呼吸をした。
「これいただきものなんだけど、お裾分けしてきて」
母親に言われておつかいに出た。おつかいの先を母親が言わなかったのは、それがわざわざ言わなくてもわかるくらい家族ぐるみで親しいおつきあいをしている「進藤さんち」だからだ。
それくらい親しい人の家の前で、あかりはもう一つ深呼吸をした。
真夏の太陽は、まだ午前中だというのにじりじりと照りつけてくる。
呼び鈴を押そうとするあかりの表情は固い。
今日はいるのかな? ……いないのかな。
高校生のあかりは今夏休み中なので、平日のこんな真っ昼間でもおつかいができるのだけれど、この家に住む幼なじみはどうなのかわからない。彼はあかりとは全然違う時間割で動いている。
いないんだろうな。
彼の時間割はあかりにはよくわからないけれど、彼がなにかと忙しそうにしているのは知っている。中学を卒業してからは、ご近所さんなのにほとんど顔を見ていない。多分今日もいないのだろう。あかりはそう思った。だけど。
いたらいいのに。
少しでも顔が見られたらいいのに。
どうしてもそんなふうに期待をしてしまうので、なかなか呼び鈴が押せない。
とはいえいつまでもそうしているわけにもいかず、それに日差しが強くひどく暑かったので、あかりは思い切って呼び鈴を押した。
「はい」
まるで待ち構えていたかのようなタイミングで即座に開いたドアにあかりは驚いた。そして応対に出てきた人に目を丸くする。
「あれ、あかりじゃん。何か用か?」
Tシャツに短パン姿でぼさぼさ頭。表情ははっきりしているので寝起き直後ではなさそうだったが、少なくとも寝起き姿を整えることはしていない。そんなだらしない格好で迎えてくれたのが、あかりが気にしていた幼なじみその人だったので、あかりは咄嗟に言葉が出ない。
いたらいいなとは思っていたけれど、本当にいるとは思っていなかった。だから、顔が見られたらどうするのか全然考えていなかったのだ。
あかりが固まっている間に、当の相手はあかりが手に提げているものに気づいた。
「それ、もらっていいのか?」
「あ、うん。もらいものだけど、お裾分け」
「サンキュ。おかあさーん。あかりんちからもらったー」
受け取ると彼は家の中に向かって呼びかけた。そして中からの返事を待たずにあかりの方へ顔を戻した。
「上がってくだろ?」
「え、いいの?」
思わずぴょこんと姿勢を正したあかりに、彼はきょとんとした顔で首をかしげた。
「なんだよ。忙しいのか?」
「う、ううん! 全然」
勢いよく首を振ると、彼はじゃあ入れよと屈託なく笑った。
その背中に続いて家に上がる。
あかりは今日何の予定もなく、本当に忙しくなかった。でも。
「ねえ、ヒカルは? ヒカルは忙しくないの?」
気になっていたことを尋ねるときは、どうしてこうも声がうわずって早口になってしまうのだろう。
不自然に響いた自分の声に、あかりはぎゅっと手を握りこんだ。
ヒカルが変に思ったらどうしよう。
「オレ? オレ今日休み」
けれどあかりの緊張をよそに、返ってきた答えはずいぶんのんびりと響いた。
「さっき起きて朝ご飯食べて、部屋に戻ろうとしたらピンポン鳴ったからさ」
先ほどドアが開いたのが早かったわけはそういうことらしい。
あくび混じりの答えに、あかりの胸がとくんと鳴る。
ヒカルがいたらいいなと思ってたら、本当にいた。
顔が見られたらいいなと思ってたら、本当に見られた。
だから、もう満足しなくちゃいけないのかもしれない。でも、だけど、もうちょっとだけ望んでもいいだろうか。ヒカルの邪魔はしたくないけど、でも、今日は忙しくないのなら。それならもうちょっとだけ。
あかりは短パンからはみだしているヒカルのTシャツを引っ張った。その感触に振り返ったヒカルの顔を見上げながら早口で望みを口にする。
「それなら、一局打ってもらえないかな。一局でいいんだけど。ダメかな。せっかくのお休みだもんね。ゆっくりしたいよね」
早口で続けているうちにだんだんと声が小さくなっていく。同時に顔も下がってしまう。厳しい世界で生きているヒカルにわがままを言ってはいけないとあかりはわかっているので、勢いが続かない。
「一局でいいのか?」
頭の上から不思議そうな声が降ってきた。いつの間にかヒカルの声はこんなふうに高いところから聞こえてくるようになった。その声に導かれるように顔をあげて、あかりはうなずく。
「うん。一局でいいから」
「それで足りるのか?」
屈託無くヒカルは笑う。それで足りるくらい強くなったのかと茶化すような言葉を添えて。
「じゃ、オレの部屋行くか」
階段を上がって自分の部屋のドアを開け、あかりに入るように促して、ヒカルはいたずらっぽく口の端を上げた。
「強くなってなかったら、もう一局な」
「ええ!?」
思わずひっくりかえったあかりの声に、ヒカルは当然だろと偉そうに胸をはった。
「今日は暇だからいくらでも打てるぞ」
だから強くなったところ見せろよなと続いた言葉に、あかりはようやく笑顔で答えた。
022 心配
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え? お題に沿ってない? いつものことですよ(開き直り)
なんか心配っていったらあかりちゃんが浮かんだんです。