ここもロクの小屋
期限切れ
ああもう図書館に返さなきゃ
『吉原炎上』 斉藤真一
作者の母親が養母(つまり作者の養祖母)から聞いたことをもとにした、一人の遊女の物語(想像をまじえたドキュメント)。没落士族の娘が吉原に売られてから、政府高官に身請けされてその妻となり亡くなるまで。
作者は画家なので、本文の絵も作者のもの。
明治時代の吉原の様子がうかがえて興味深い作品。
明治のころは、女性の働く場などそうはなかったので、スポットライトのあたる場所といえば花柳界くらいしかなく、吉原の花魁といえば一種女の子の憧れという面もあったそうで。主人公は政府高官に見初められたりするわけですから、吉原は幸せをつかめる場所とも言えそうですが、その一方で病気になってろくな治療も受けられずに一人死んでいったり、好いた相手と心中しても一緒の墓には入れてもらえなかったりする遊女達が多かったのも事実。
こうしたものを読むと、自分が生まれ生きているのが今であって、別の時代でないことが不思議というか、そうしたことを色々考えます。
『年金をあてにしない蓄財術』 落合和雄
豊かな老後を過ごすには、夫婦で月35万の生活費がいるとして、さて貴方の年金は足りますか? 足りないならどうしますか? という本。
まず大事なのは自分にとって「豊かな老後」とは何かをしっかり考えること。場合によっては月35万でも足りないかもしれないし、そんなにいらないかもしれない。というようなことをくり返し述べているので、お金を用意するためのハウツー本というよりは、老後をちゃんと考えなさいよという啓蒙書に近いかな。
具体的なハウツーはけっこう厳しい。
その1、老後も働け。税理士とか資格があって独立できて自分の裁量で仕事量の決められる定年のない仕事を考えろとのこと。ちなみに作者は税理士。
その2、財産を有効に使え。親や自分が土地やら金やら持ってたら、早めに相続させてもらうなどしてローンの返済や投資に使うなどしなさいって。相続税は財産をものすごく持ってる人以外はそう心配することはないそうです。まあ持ってるなら使えばいいよね。親にも自分にもない人は?
その3、子供はさっさと独立させろ。いつまでも親元にいてすねかじられちゃたまんないぜ。自分の老後のために子供の生活は子供自身にみさせなさい、だって。うあ、耳が痛い。
子供に関しての記述で驚いたのは、退職金にかんする記述。退職金は勤続年数によってその額が変わりますので、同じ60歳定年でも18から働いた人と、22から働いた人では4年分金額が変わるわけですね。なので、退職金だけ考えたら早くから働いた方がお得。大学受験で2浪も3浪もさせるくらいなら、就職させるか、入れる大学にとっとと入れた方がいいよって。
浪人か就職か妥協入学かの選択をするときに、そんな視点があるなんてびっくり。退職金は税金も安いから、年収が多いより退職金が多い方がトータルで考えたらお得な場合もあるそうな。
まあ、そうかもしれないけど、今の世の中最初に就職したところでずーっと定年まで勤めるとは限らないし、勤めたところで会社がつぶれたら退職金パーだし、退職金だけを当てにして決断するのは危険ですよね。サラリーマンにとって、退職金が一番の財産なのは確かですけどね。結局子供をあんまり甘やかすなということが言いたいのかも。
そんなこんなで、意外と色々面白かったので楽しんで読みました。
『図説 イエス・キリスト』 河谷龍彦
キリスト教全体の解説ではなく、イエスの足跡に限定して紹介している本。
作者はイスラエル在住でガイドの仕事もされているそうで、単にイエスの紹介にとどまらず、現在のイスラエルの様子なんかも書かれているので、その辺りが一番興味深かった。
中味はといえば、客観的な研究書ではなく、小説のような雰囲気。聖書の記述に即して順にイエスの生涯をたどるのですが、その心情なども交えて書かれています。そのあたりが小説風。
非常に面白かったのですが、イエスについて知りたいという人が最初の一冊にするには不向きだと思います。作者がイエスのことを好き過ぎるような……。他に色々読んでいて、さらに他の視点で見てみたいという人向き。とっても読みやすい初心者向けに作ってある本なんですけどね。
『図解 これだけは知っておきたいキリスト教』 山我哲雄
キリスト教の成立の流れだけではなく、その後の発展と現在の形も押さえてある本。
キリスト教についての色んなコラム集といった体裁。一つのテーマについて見開き1ページにまとめてあって読みやすい。キリスト教の教義といった中味の解説書ではなく、キリスト教の外見についての本といった雰囲気。
キリスト教の各宗派の違いなども、語句の使い方や聖職者の服装といったことから紹介されているので、読みやすいしわかりやすい。入門編としてとっつきやすい一冊。宗教改革の流れも整理されていて、歴史の勉強にもなりました。
『すぐわかる世界の宗教』 町田宗鳳 監修
「古代の神話から新宗教まで」という副題がついているのですが、やっぱりキリスト教、イスラム教、仏教についての記述がほとんど。あとはヒンドゥー教とユダヤ教。他の宗教は見開き1ぺージから数ぺージ。それでも充分面白く読めました。
ただまあ、この手の本は「すぐわかる」とかって書いてあっても、これ一冊じゃわかりませんけどね。コンパクトにまとめてあるのは確かだけど、中途半端に知識がつくとかえってわからないことだらけになるので。
全然わからない状態で調べようとしても身動きとれないので、まずこれ読んで調べるとっかかりを見つけるために読むのにとてもいい本です。
『図説 エジプトの「死者の書」』 村治笙子・片岸直美 文 仁田三夫 写真
学校の副教材に使われるような、写真と図版を多用した体裁の本にはまってしまいました。見開きにしたときの文字の量がちょうどよくて。
吉原は文庫で年金は新書ですが、それ以外は全部そうしたカラーの多い図版です。この本もそう。エジプトのお墓の壁画や、パピルス、副葬品などの写真がたくさん載っていて、それを眺めているだけでも楽しい。
「死者の書」というのは、エジプトの副葬品(または壁画)の一つで、亡くなった人があの世で幸福を得るための呪文が書いてあるのだそうです。死んだらどこへ行って何をしてっていうことが全部書いてある。ある意味カンニングペーパー。書かなくても覚えてれば大丈夫なんだろうけれど、覚えてられないから書いてある。呪文だけだとわかりづらいからってイラストつきで。
その死者の書を紹介しながら、エジプトの人たちの宗教や死生観を解説している本。これを熟読してから、エジプトに行きたいと思いました。意味を知った上で見るのと、ぼんやり眺めるのとでは大違いですから。
エジプト人は、死者も生前と同じように暮らすと考えていたそうです。もちろん、死者の書にあるような試練をくぐり抜けた人だけの特権ですが。本気で、死者も生者と同じように生活をするのだと信じていたら、そりゃあ死後の準備は怠りなく万全にって思うでしょうね。だって、死んでからの方が長いんだもん。
エジプトのお墓の内装や副葬品がすばらしいのもわかる気がするのでした。でも、だからって死後の準備をするために生きるのは大変だなあと思ってしまいました。
返す前に短くメモだけって思ったのに、随分長くなってしまいました。