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とりあえず9番目 

雨の日で10題...2  配布元:淡い空 淋月 蓮様
09. 水彩のアジサイ (遙か)

 

1から8までは、トップの黄菖蒲から行けます。

6/6企画でした。
雨の日で10題...2

01. 雨の日の待ち合わせ(コルダ)
02. 触れ合った肩(コルダ)
03. 梅雨前線絶好調!(遙か)
04. 空の涙(サヴァイヴ)
05. かたつむりと私(サヴァイヴ)
06. 「濡れますよ?」(ヒカ碁)
07. 雨音の中の沈黙(サヴァイヴ)
08. いつもと違うシチュエーション(ヒカ碁)
09. 水彩のアジサイ(遙か)
10. 雨と共に舞え(未消化)

10は近いうちに披露できるように考え中です。

 


 

 幼稚園のお絵かきタイム。
 今日のお題はあじさい。
 幼稚園の庭にはあじさいが植えてあり、今が盛りのそれが教室からよく見えたから。
 望美はクレヨンを片手に、小さい丸を一心不乱に描いていた。
 あじさいは、お隣の将臣くんと譲くんのおうちにも咲いているから、望美もよく知っている。だから、ちゃんと上手に描きたかった。
 あじさいは小さい花びらがたくさんある。その小さい花びらを一枚一枚、丁寧に描き、画用紙を埋めていく。花びらをたくさんたくさん、もっとたくさん。
 画用紙に顔をくっつけるようにて一所懸命描いていた望美はふと顔を上げて愕然とした。
 あじさいの花びらは、望美の頑張りで、たくさんたくさんたくさんたくさん描けていた。画用紙いっぱいに花びらが広がっている。画用紙にはもう、一枚の花びらも入らない。

 そう、望美の画用紙は、あじさいの花びらだけで一杯になってしまったのだ。

 ピンクの小さな丸で埋め尽くされた画用紙は、描いた望美にでさえ、それがあじさいを描いたものだとはわからなくなってしまっていた。
 がっかりして隣を見ると、将臣がクレヨンを投げ出していた。もう、描けてしまったらしい。
 自分が失敗してしまっただけに、将臣がどんな絵を描いたのか、望美は気になった。
 見せて欲しいと頼むと、将臣はあっさり画用紙を寄越した。
「これ、あじさい?」
 望美が首を傾げると、将臣はつまらなそうにそうだと言った。将臣はあまりお絵かきが好きではない。
「ちゃんとあじさいに見えるだろ」
 それでも一応、将臣はそんなふうに主張した。望美はまた首を傾げた。
 将臣の画用紙には、青い丸が真ん中に大きく描いてあった。その回りを少し小さめの緑のゆがんだ丸が取り巻いている。
 多分、青い丸があじさいの花で、緑のゆがんだ丸は葉っぱなんだろう。
 そうとわかって、望美はまた少し落ち込んだ。
 非常に大雑把な描き方だけど、それでも将臣の絵はあじさいに見える。だから望美より将臣の方が上手に描けていると思ったのだ。

「譲くん、あじさいの絵、かいて」
 家に帰ると望美は早速お隣へ遊びに行った。そうして譲をつかまえるや否や、そんなお願いをした。
 譲はよく彼の祖母と花の世話をしているから、自分より、将臣より上手かもしれないと思ったのだ。
「あじさいのえ?」
 突然のお願いに、戸惑いながら画用紙とクレヨンを受け取った譲は、それでも描き始めれば迷わなかった。
「あじさいは、小さいお花がいっぱいあつまっているんだよ」
 そう言いながら、望美がしたように花びらをたくさん描いていく。
 望美と違うのは、一枚の花びらを散らすのではないことだった。何枚かの花びらをつなげてちゃんと花の形をつくり、そうして描いた小さな花を増やしていく。
 花びらの形も、丸よりは四角に近かった。
 やっぱり譲くんはちゃんとお花を見ているんだと、望美は感心しながら譲の手元をのぞき込んでいた。
 小さな花がたくさんたくさんたくさんたくさん描けた頃、譲と望美は同時に首を傾げた。
「これ、あじさい?」
 感心したのも束の間、望美は将臣の時のように首を傾げた。
「へんになっちゃった」
 そう言った譲の声がゆがんでいたので、望美は慌てて上手だよと譲の頭をなでた。
「あじさいに小さい花がたくさんあるなんて、わたしは知らなかったもん。譲くんはすごいね」
 望美の気遣いが間に合ったのか、譲は涙をこぼさなかったけれど、不服そうに口を引き結んでいた。自分の思ったように描けなかったのが悔しいのだろう。
 譲のあじさいは、小さな花がたくさん集まってできていた。けれど、それはあじさいには見えなかった。なぜなら、小さな花が集まって作っている形がひどくでこぼこして不格好だったからだ。本物のあじさいもでこぼこしているけれど、これほどじゃない。
 望美ですらそう思うのだから、望美よりあじさいのことを知っている譲は余計にそう思うのだろう。
 結局その日、譲の機嫌は治らなかった。

 三者三様のあじさいの絵を、将臣と譲の祖母がひどく面白がり、それらを自分の部屋に飾ったそうだ。そのことを望美が知ったのはずっと後のことだった。
 小学生になった譲が、あじさいの絵で県のコンクールに入賞した、その御祝いを言いに行ったときに譲から聞いたのだ。
 三人ともあじさいのことをよく見ているとおばあちゃんが褒めてくれたから、三枚の絵のそれぞれよいところを研究したのだと、譲は嬉しそうに頬を染めて話してくれた。

 クレヨンから水彩絵の具に、そしてよりあじさいらしく変わった一枚の絵。それもまた同じ壁に飾られたそうだ。

 

 

――――

 なんのひねりもないお題消化…………。
 もうちょっとおばあちゃんをしっかりからめられれば、いい話になるのだろうけれど、力不足でした。

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