『グラーレンの逆臣』『エルヴァインの末裔』『バルハールの姫君』『カストレーデの皇子』『シェーンベルムの騎士』『ユスティニアの花束』『イシュターナの祝鐘』 雨川恵
コラフェリシリーズが終わったからと手を出したアダルシャンシリーズ最終巻までと短編集1冊
もう最終巻まで読んじゃったのかいなと自分に呆れ気味。
図書館が蔵書整理のためお休みに入り、来週末は借りに行けないので、その分までまとめて借りたつもりが一日で読んでたら世話ないよね。グラーレンとエルヴァインを読んだのは先週末だけど、バルハール以降は昨日全部読んでしまいました。一冊読むのにかかる時間が30分から40分しかかからないから、気がついたら終わってた…………。次の探さないとなー。
さて、お話自体は一気に読めるくらい楽しいものでした。こんなに過保護に甘やかされてる男の主人公ってなかなかいないなあと思いますが、本人に甘やかされてる自覚がないのもかわいそうなところ。実際、かなり不幸な生い立ちで現在の境遇も厳しいんですが。
それでもちゃんと大事にしてくれる人もいるんだけど回りの過保護ぶりがズレすぎで本人が気づかない。回りっていうか全面的に兄上のズレっぷりが悪いんだけれども。だから主人公はわかりやすく好意を向けてくれる人にすぐなつくんだ(笑)。だから10歳年下の幼妻の尻にもしかれるし甘くもなろうというもの。10歳差夫婦のやりとりは非常に可愛いです。
ストーリー自体はわりと深刻な陰謀とか戦争とかがありまして、そっちの展開もなかなか引き込まれます。でも一番最後にして最大の危機の解決法がそうなるんかいと拍子抜け。そういえばこの話、ホームコメディだったね……。だからそれで正しいのかな。まあ12歳のお姫様が主人公を助けようとしても、出来ることが非常に限られてしまうので、お姫様が王子様を助けるという構図を作るには、そういくしかないというのはわかりますが。でも拍子抜け。
この拍子抜け感には覚えがあると思ったら、あれだ。彩雲国物語。あれも、散々危機感煽っておいて、結局それで解決かと何度か拍子抜けしたことがあるのを思い出しました。奇しくも(?)同じビーンズ文庫。
こうした物語に、現実的な展開とか悲劇なんて求めないし、夢見がちでもご都合主義でもハッピーエンドにしてくれたほうが、私だってありがたいと思うんですが、それでもなんかもの足りないと思ってしまうのは、ファンがどれほど嘆こうが惜しもうが、ばたばた人が死ぬ物語を読んだ経験があるからでしょうか。三国志とか水滸伝とか平家物語とか銀英伝とか(それ同一なのか)。
ともかく、年の差夫婦に充分楽しませてもらいました。この後どうなるのか、気になりますが続きはないようです。
星宿姫伝 『くろがねの奇蹟』 菅沼理恵
しろがねから続いたシリーズ最終巻。
くろがね編、展開早いー。早すぎて、なんかあっけなく解決しすぎという拍子抜け感が、やはりこれもひしひしと。
世界レベルでの危機が起こっていて、それをどうにかしようという人たちがいて、主人公の国は危機の原因に深く関わりがあるので、その人たちによる介入を受けてあれやこれや大騒動になって、主人公も危機の回避に 全力を尽くすようになって、そしてその解決までを書いているのがくろがね編。
ところが、描写されるのが主人公の回りで起きたことにほぼ限定されているので、世界レベルでの危機とかって言っても、話がとんとんとんと進んでしまいます。危機に先に気づいた人たちがアクションを起こし、主人公がそれに答える。主人公の答えを相手がどう思いどうやって対応を決めたかはすっとばして、主人公の前で起こした行動がいきなり書かれる。
あくまで、主人公の国が舞台の中心なわけです。
物語の主題は主人公の成長にあるので、正しいやり方なんですけれども、国と国の思惑のぶつかりあいとか陰謀術作うずまく人間模様とか、そういうの期待して読んだら確実にもの足りない話。
そもそもロマンス目当てで借りたものなので、そんなどろどろ期待してたわけじゃないし、話の落ち着いたところに文句があるわけじゃないんですが、でも展開早かった。作者の中では膨大な設定があって、どれもこれも落ち着くところに落ち着いたんでしょうが、でも早かった。
肝心のロマンスは、鳶に油揚げをさらわれる――と言っていいのかな。しろがね編の野郎どもは全滅なのでまあ言っていいんだろう。
隣国の王子が主人公に惚れたっていうエピソード、その後放置だったからもう忘れていいのかと思ったら、主人公が自分の想いを自覚するのに使われてました。思えばこの王子が一番激変したキャラなのかも。初登場のときはまさかそんな役所をするなんて思いもしませんでしたよ。王子、主人公と文通してたのかー。そんでゆっくりと友誼を深めていってたのに、ぽっと出の男に持ってかれたのか。不憫だなー。
主人公カップルは、とっても初々しくて可愛らしゅうございました。
そしてラストは青騎士がもっていった! 彼はおいしい場面たくさんもらってたなー。いっそ主人公と青騎士がくっついてもよかったんじゃないのか。
おもしろくなかったとは言わない。けど、萌えのつぼは、ことごとく私と合わなかった。そんなシリーズだった。
居眠り磐音江戸草紙
『夏燕ノ道』『驟雨ノ街』『蛍火ノ宿』『紅椿ノ谷』
NHKテレビ時代劇の原作。
主人公が爽やか。そのヒーローっぷりを楽しむ本。
その活躍は将軍様にまで届くくらいになってまして、そんな都合良くいくわけないって展開なんですが、そこはそれ、水戸黄門や暴れん坊将軍の展開にけちをつけてはいけないのと同じ事(笑)
秋にまたNHKで放送されるのが楽しみ
『心霊探偵八雲7 魂の行方』 神永学
シリーズ第7弾。八雲のルーツがまた一つ明らかになりました。
でも、6冊目で一段落しているので、7冊目は新たな展開の幕開けっぽい雰囲気。この1冊で何かが大きく動いたとか、八雲と晴香ちゃんの仲が進展したとかそういうのはほとんどない。あ、晴香ちゃんのお父さんに八雲はお目通りがかないましたけど、それくらいかな。
『女王の百年密室』 森博嗣
主人公の一人称で進む文体は、主人公の気分に応じてふらふら不安定になったりします。その混乱したところを追ってるとうっかり酔いそうになってしまいました。FFとかで飛行物体の操縦やらされたときになんかくらくらするあの感じに似てるような。
それはそれとして、続編の『迷宮百年の睡魔』を先に読んでしまったことをひどく後悔した。
ネタバレしてから読んだから、ラストで「え!」って思うところが、「ああそうだっけ」になっちゃった。周りの人の主人公に対する反応に疑問を感じなきゃいけなかったのに、読み流してしまったからミステリー度が低くなってしまいました。
充分面白かったんだけど、それだけにネタバレで損なわれた分が惜しまれた。私のうかつさが悪いんだ。
また別の森博嗣作品を借りてこようと思います。
『吉原手引草』 松井今朝子
直木賞受賞作だそうです。
吉原で、事件に関わる色々な人に話を聞いていくというスタイルで話が進みます。帯を読むと事件の中味がわかるんですが、帯を見ないで読み始める方がお薦め。最初は事件って何が起こったんだろうってそれすらわからないわけですが、その方が楽しめると思います。
対話形式で進み、章ごとに語り手が変わるっていうのは、以前読んだ恩田陸の『Q&A』と同じですが、あれと違って、事件の中味とその真相はラストではっきり決着がつきます。
章が進むごとにだんだん情報が増えていくその感覚も心地よく楽しいのですが、それに加えてどの章を読んでいても、吉原の情景が鮮やかに浮かんでいくのがまた面白い。事件の核心にいる花魁の葛城は、結局最後まで話の中でしか登場しないんですが、それだけに語る人の数だけ葛城の姿があってどんどん引き込まれます。
一番最後の語り手の言葉、「葛城と呼ばれた花魁を、ハハハ、拙者はひと目見たいと願うばかりだ。」までたどり着いたときには、その言葉に大いに共感しました。
もうちょっと落ち着いて一冊ずつ読み込んだ方がいいってわかってても、目の前に本があるとつい読んでしまいます。