ここもロクの小屋
こんなの見ました
うちは小さなお寺なのですが
うちは小さなお寺なのですが、最近は物騒なので防犯カメラを設置しています。賽銭泥棒ならまだ可愛いものですが、仏像を狙う輩が横行しているという話を聞きつけた父が取り付けたのです。正直お寺の景観にそぐわないし、実際どれほどの抑止効果があるのか怪しいものだと私は思っているのですが、何もしないではいられなかった父の気持ちはわからないでもないので、好きにさせています。
今朝、その防犯カメラに怪しい人が写っていると母が騒ぐので、みんなで映像をチェックしました。
真夜中、二人の若い男が境内をうろついていました。若いのに騒ぐでもなく静かに歩き回るその様子が不気味で、私は一瞬息をのみましたが、その男の顔が見えたところでほっとして肩の力が抜けました。その男は近所に住む私の同級生だったのです。
彼は子供の頃、よく肝試しだと言って夜中うちの寺に忍び込み、手柄顔で自分の勇気を自慢していました。仏様は怖いものではないのだから、肝試しなんて失礼だと私は文句を言いましたが、彼は友達を巻き込んでは肝試しを繰り返すので、しょっちゅうけんかになったものです。うちの親にも彼自身の親にも叱られたはずですが、結局彼の肝試しはずいぶん長い間恒例行事になっていました。
とはいえ、さすがにお互いいい年になったこの頃ではそんなこともなくなっていたのですが、どうやら昨晩は何かの拍子に昔の冒険を試みる気になったようです。古いなじみと飲み会でも開いて、昔話が盛り上がったのでしょうか。
ほんとにいくつになってもしょうがない奴だ。
映像を見ていた私たちの緊張が解けました。
きっともう一人も知った顔に違いない。彼の悪ガキ仲間のどれかだろうと思いました。私にとっても知り合いだろうし、まとめて文句を言いに行ってやろうと私は映像をのぞき込みました。
果たして、もう一人もよく知っている人物でした。防犯カメラの荒い映像でもすぐわかるくらいに。
それは彼の弟でした。二人とも私にとっては幼なじみです。彼らは仲の良い兄弟で、いたずらも連れだって行っていましたから、肝試しのときもいつも一緒でした。二人で夜中うちの寺をうろつくこの光景は、もし防犯カメラが昔から設置されていれば、きっと頻繁に記録されていたのでしょう。そうしてそれを確認する度に、私たち家族はまたかと苦笑を交わし合ったのでしょう。
けれど、私たちは苦笑どころか声一つあげることが出来ませんでした。
彼らは仲の良い兄弟でした。でも、二人でうちの寺に来られるはずがないのです。
弟はついこの間事故で亡くなりました。葬儀は寺を継いだ兄が執り行いました。お墓もうちにあります。私も葬儀とそれに納骨にも立ち会ったのです。
それなのに、この映像はなんなのでしょう。私たちが彼の顔を見間違えるわけはありません。確かによく知った兄弟が二人で、夜中、うちの境内を……。
突然来客を告げる声がしました。
その声で凍り付いていた体が動いた私は応対にでました。そしてまた動けなくなりました。
尋ねてきたのは彼でした。いえ、彼らでした。
私の同級生が私に向かって何かを言いましたが、私は答えることができませんでした。私は彼の背後にいる彼の弟から目を離すことができなかったのです。弟の顔は青白く表情というものが一切ありませんでした。けれど、私が本当に恐ろしいと思ったのはそのことではなく、同級生の顔もまた弟と同じようであったことです。全く同じだと認めるのが怖くて、私は彼の顔を直視することができず、震え上がりながらも弟の方ばかり見ていました。
動けずにいる私の後ろから兄がやってきて、彼を家に招き入れました。
入れないで!
そう言いたかったのですが声はでませんでした。私は彼らとすれ違うとき目を開けていることができませんでした。目を閉じた暗闇の中で、私は必死にお経を唱えていました。
南無阿弥陀仏…あれ、南無妙法蓮華経の方がいいんだっけ? 般若心経か?
ってとこで目が覚めました。
うちは寺じゃないし、兄もいないし、幼なじみの男兄弟もいないのですが、なんでこんな夢を見たのかさっぱりわかりません。幽霊話や仏像の話を寝る前に見たわけではないのですが。
とりあえず寝覚めはよかったです。もうすっきり。時計を見たら5時でしたけど、眠気吹っ飛びました。今日眠ったらこの続きなのかと思うと、なかなかベッドに入れません。