ここもロクの小屋
さらに、シャアラ、負けちゃだめ (サヴァイヴ)
まだあったりするんですよ。
そういうわけで、ボツネタその3
「ビスケットじゃ不純物が多すぎて体に悪いわ」
ロボットの自分よりも育ち盛りの子供たちの食料を優先するのは当然のことだ。
だからチャコはあのとき朝食を譲ったことを後悔したりはしなかった。実際、ビスケットがチャコの体に適さないというのもうそじゃない。
けれど、予想よりも早く動かなくなった自分の体に、憤りにも似た歯がゆさを感じる今の状況では、一口だけでももらっておくべきだったかとそんな考えが頭をよぎる。
うちはやせの大食いやからなあ。
チャコは胸のうちで切ないため息をもらした。
チャコは一般的なタイプのロボットペットに比べると、必要なエネルギー量がずいぶんと多かった。その理由は、廃棄されてこの世から消滅する寸前のチャコを救ってくれた、ルナの父その人にある。
彼は母親を亡くしてふさぎこんでいる娘のために、チャコにずいぶんと手を入れた。例えば、豊かな表情と身振り、その元となる感情がそうだ。チャコのそれらが他のロボットペットよりずっと多彩なのは、娘の寂しさが少しでも薄れるようにとの彼の心遣いからきている。子供の相手をするならば、無表情より多少うるさいくらいの方がいいのだ。
ただし、それらを可能にするためには普通のロボットペットよりも演算能力の高い処理装置が必要であり、それはもちろん通常のタイプよりも大量のエネルギーを喰うのだ。
一事が万事その調子で、一般的なタイプのロボットペットよりも高性能かつ多機能になった分、チャコが必要なエネルギー量もまた増えてしまったというわけだった。
こんなことやったら、太陽電池でもつけてもらうんやったなあ。
エネルギーの摂取をものを食べるという形で行うのも、またルナのためだ。
一人で食事をすることがどうしても多くなってしまったルナには、一緒に食卓を囲む存在が必要だと、ルナの父は考えたのだろう。 たとえ全く同じものは食べられなくても。
しかし、肝心なルナ自身の食料すらおぼつかないこの状況では、自分まで食料が必要だというのはどう考えても効率の良い話ではない。
チャコのそばではシンゴが通信機の修理にとりくんでいる。ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返すその真剣な姿には感心するのだが。
シンゴ、それじゃあかん。
チャコはわずかに動く顔をしかめて動かない口でつぶやく。
シンゴの腕が悪いのではない。シャトルの破損状況があまりにひどすぎるのだ。さっきシンゴには、チャコの体の部品を使わせてもらうかもしれない、なんてことを言われたが、果たしてチャコを解体し、部品をすべて使ったところで役に立つかどうか。
この島での生活は相当長くなるかもしれない。どのくらいになるかは今のところ予想もつかないが、少なくともそれなりの覚悟は必要だろう。
水も食料も住む場所も何もかも不安定な状況なのに、自分はルナを助けてやれないのだろうか。
お父ちゃん、堪忍な。うち、ルナを守りきれんかもしれん
どんどん暗くなっていく視界に、思考もまた暗くなる。
思わず弱音をこぼしたチャコだったが、その鼻がぴくりと動いた。チャコの高感度なセンサーが、何かの匂いをとらえたのだ。
「め、めしやー」
何の匂いか判断がついた次の瞬間にはチャコはシャトルを飛び出していた。その勢いのままかぶりついた果実は乾ききったチャコの体の隅々に染み渡り、いつもの元気がぐんぐんと戻っていく。
お父ちゃん、堪忍な。弱気になってもうて。もう大丈夫。うちは最後までルナを守ってみせるでー!!
決意を新たにしたチャコの顔は、甘い果汁に染まっていた。
この話は最後までボツにするかどうか悩みました。
こっちの方が小話としてのまとまりはいいとは思うんです。
ただ、ルナにも挑戦するぞという決意を優先して、ルナの話の方が採用となりました。
これは、そうですね。全話制覇の三周目に挑戦できる日が来たら、その時に使いましょうか(笑)