ここもロクの小屋
シャアラ、負けちゃダメ (サヴァイヴ)
というわけで、ボツネタその2。
つぼのような形をした植物が、完全に動かなくなったのを確認すると、ベルは大きく息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。
立ち上がろうとしているカオルに歩み寄り、手を差し出して大丈夫かと尋ねると、カオルはベルの手を借りることはしなかったが、大丈夫だという答えは返してくれた。
その答えどおり、どこもケガをしたような様子はなかったので、ベルはもう一度息をついて笑った。
改めてさっきの植物に視線を戻すと、ベルの投げた丸太に貫かれてすっかりつぶれてしまったそれは、ばらばらになった姿でも十分大きかった。人一人くらいならすっぽり収まってしまうのだろう。
「……食虫植物というのは聞いたことがあったけど、まさかこんなに大きなものがいるなんて」
「食虫植物?」
思わずもらした感想に、同じように植物の残骸を観察していたカオルが怪訝そうな声をもらしたので、ベルは昔父親から聞いた話を披露した。
「栄養分の少ない土地で育つ植物の中には、虫を捕まえてそれで栄養分を補うものもあるって聞いたことがあるんだ。でもこんなに恐ろしいものだとは思わなかったよ。俺が聞いたのは、甘い匂いで罠を仕掛けて、虫がかかるのを待つっていうものだったから」
「そういえば甘い匂いがするな」
ベルの説明を聞いたカオルは、足元に転がっている丸いものを一つ拾い上げた。
「これ、あの植物の実なんだろうね」
カオルの手元の実にベルも顔を近づけてみると、なるほど甘い匂いがそこからあふれている。ずっと必死で、さっきまでは匂いに気づく余裕などなかったのだが、これだけ強い匂いなら確かに遠くから獲物をおびきよせることもできるだろう。
「食虫植物に毒はあるのか?」
黙って果実の観察を続けていたカオルから不意にそう尋ねられて、ベルは眉を寄せた。
「どうだろう。毒のことまでは聞かなかったから、ないのかな。でも、ひょっとしたらあるのかもしれない」
父もそこまで詳しくは教えてくれなかった。自信のない返答だったが、カオルは気を悪くしたりはしなかったらしい。そうかと短く答えただけで、他にも転がっている実を集め始めた。
「カオル?」
「毒はないかもしれないんだな?」
やはり短い返答だったが、カオルの言いたいことはわかった。毒があるのかないのかわからないなら、一応食料として持って帰ろうということだ。
「そうだね」
答えて、ベルも近くの実を拾い始めた。
と、まあこんな感じで、あの化け物植物を倒した後、四人が戻ってくるまでを書こうかなと思ったのです。ここなら、ボツネタその1で書こうと思った場面と違って、空白の時間はたっぷりありますからね。いくらでも捏造は可能なわけでして。
ただ、いくらでも可能なだけに、言わせたいセリフとかやらせたいことが多すぎて、収集がつかなくなってどこで終わらせればいいのかわからなくなったので、結局ボツに。
誰視点で書くかということにも悩んだんですよねえ。色々試したのですが、これはその中のベル視点バージョンです。
この辺りの話なら、私が書かなくてもよそにもあるかなあと思ったのもボツの理由だったり(笑)