ここもロクの小屋
記憶力
ここに読んだ本のことを書くようにしてから、読んだ本のことを忘れることはなくなりました。
昼休みに読もうと思って、本棚からいつものように一冊抜き取っていきました。
さて、読むかと開いた一ページ目。
――これ、つい三日前に読んだやつだ。
しばらく記録をさぼっていたのがいけないようです。
タイトルと作者名をすぐに忘れるので、中味まで見ないと読んだかどうか思い出せない。
そんなわけで、自分の為のメモ。
『夢十夜』 夏目漱石
その存在はもちろん知っていたのですが、読んだことはありませんでした。
やっとチャレンジ。
これはくせになる本だと思いました。
夢を書いたものだけに、どれも朧な、はっきりとしたつかみどころのない雰囲気がありますし、そのなんともいいようのないもやもやとしたものが、後を引きます。
これは借りて読むものじゃないと思ったので、購入してこようと思います。
『未明の家』 篠田真由美
迷宮シリーズというマンガの探偵役は「綾小路京」といいます。その解説を、篠田さんが書いていたことがあり、その中で篠田さんも「京介」という探偵を書いているという話をされていました。それで興味を惹かれて読んでみた本。
迷宮の「京」と似ているところがあるということだったので、ついそのイメージを捜して読んでしまったせいか、ミステリとしてあまり楽しめませんでした。読んだきっかけが悪かったな……。
ミステリの型としてはホームズ型とでもいうのかな? 探偵の脇にいる人の視点で書かれていて、探偵の方はワトスン役や読者を置き去りにとっとと真相を見抜き、だけどしかるべきときまで明かさないという。浅見光彦とかだと、探偵役が右往左往するけれど、これは探偵役が苦労しているようには見えないタイプでした。ホームズの方が苦労してるかも。京極堂なんかも、探偵役の苦労は見えないな、そういえば。
ともかく、これが「京介」かあと、終始そればかりで読んでいたので、ミステリの中味をどう感じたかほとんど覚えてません。もう一作借りてこようと思います。
『仙姫午睡』 桂木祥
第九回ホワイトハート大賞「佳作」受賞作。
人魚の肉を食べて不老不死になったという八百比丘尼の伝説をモチーフにした作品。最後は岩窟で断食して果てたということになっている伝説のその後を書きます。
鎌倉に暮らす高校生の泉は、自分の記憶と自分に対する家族の態度に不審を感じていた。そしてある日、不思議な青年が彼女に会いに来る。その青年を、泉は知っているような気がして……。
そうして主人公泉の日常が崩れ、彼女は自分の正体を知り、そしてまた伝説へというお話。
封じられた仙女の覚醒の話というと、金蓮花の「月の系譜」シリーズを読んだことがあったので、終始、あれと似てるなーとしか思わなかった。雰囲気もなんとなく似ているような。
投稿作ということで、事件が「覚醒」それのみであったから、余計に印象に残らなかったのかもしれません。この手の話が面白くなるのも、それぞれの話の個性がでるのも、「覚醒」の後ですからねえ。目覚めだけではなんとも判断のしようがない。この続きはあるのかな。
そんなわけで、特にどうということもないのですが、一つだけ不満はある。最初の「死」はどうしようもなかったのに、もう一つの「死」はなかったことにできるってどうなのか。一度切れた魂の緒はもう結べないって断言していたのに、全ての記憶を消して原因をなかったことにすれば、死すらなかったことになるっていうのはなあ。理屈はわからなくもないが、そんならいっそ、最初の死の記憶すらなかったことにすればいいんじゃないのか。物語の重大なきっかけを、最初の死に置いているだけに、次の死を簡単に消してしまったのは納得しづらい。
ハッピーエンドなら全てよしとは思えなかった。どうせ原因を消すなら、最初の死から全部なかったことにするくらいの力業でいってくれたほうが、かえってすっきりしたかもなあ。
と、思いました。