ここもロクの小屋
『anego』 林真理子
そういえば同タイトルのドラマがあったな、もしかして原作? と思いながら開いて、ちょっと読んでからやっぱり違うのかな? と思い、ドラマと同エピソードが出てきたのでやっぱり原作なのかと思いました。
ドラマはたまに眺めるだけだったので、結末も流れもわからないのですが、このままドラマ化したわけじゃないんだなというのはすぐにわかりました。昼ドラならともかく、篠原涼子主演でこれはないだろうと。相手役もジャニーズの誰かだった気がするし、これをこのまま映像化はできなかっただろうな。
anegoという言葉自体は、最初の方にちらと出てくるだけなので、最初はなんでこんなタイトル?と不思議に思いました。でも、そう呼ばれる所以となっている主人公の性格、「頼られると放っておけない。放っておくと罪悪心すら覚える」という貧乏くじ体質が、全ての出来事の結末を決定づけているので、読み終わったら納得しました。
恋愛ホラーと宣伝文句がついているので、どんなものかと期待したのですが、過剰コピーだと思います。そこまで言わなくてもいいだろうと。少女漫画と比べれば、怖いかもしれませんが、ホラーかなあ。単に、「好き」だという純粋な気持ちだけで恋愛できた時期はもう過ぎた年代の女性を書いてあるだけで、そんな話は他にも転がっていると思いますが。
恋愛を単なる恋愛として楽しめなくなってる女性が、じゃあ何をどう感じて恋愛をするのか、またしないのか、その辺の心理の描写は見事で、さすが林さんだとは思います。なので、その描写があまりにリアルすぎて、身につまされるような人にとっては、ホラーかもしれません。こうなったらどうしようとか、自分もこうなりそうだとか、そういう不安を煽られる人にとっては。
それと、主人公の善意が、たとえ周りの人を助けたとしても、主人公自身にはまったくといっていいほどいいものをもたらさないので、それもホラーといえばホラーなのかもしれません。
いい人が報われるとは限らない世の中。
それを、こうも無造作に書かれると、わびしいものがわいてきます。
あまりいい感想ではありませんが、主人公の心理描写のどこか一つにでも共感できれば、読んで損したとは思わない本です。爽やかなラストではありません。でも、日常というものは爽やかなばかりで出来ているわけではないし、「私と同じように感じている人がいる」という安心や慰めを得るには充分な本かと。
主人公とどこか一点でも重なるところがある人ならばですが。
30代の主人公より、ずっとずっと若いお嬢さんや、男性が読んでもおもしろいかどうかは……? 自分とかけはなれた主人公を楽しむという読書の形もあると思いますが、それに向いているのかどうかはわかりませんね。