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エイプリルフールボツネタ(サヴァイヴ)2 

 リハビリって言うなら、最後まで書かないと意味ないんじゃないの?

 

 そんな至極もっともなご意見をいただいたので、最後まで書いてみることにしました。ロマンスは生まれませんが前回の続きです。
 連載になりましたと言いたいところですが、あと1回で終わります(多分)。

 


 

 リーダーシップマニュアルと共に父によって送り出され、そしてルイと出会ったそこは、とある講習会だった。各分野で将来指導的立場に立つことを期待されている子供に、リーダーとしての正しい心構えや振る舞いを説き身につけさせるということを目的として開かれたものだ。
 そうしたことも全て後から知ったことだったが、この講習会は受講料がそれなりに高額でしかもしかるべき紹介人がいなければ受講できない。ゆえに受講者は自ずといわゆる「良家の子女」に限られていたようだ。高額の受講料もその理由は厳重にしかれた警護のためだというのだから、なんとも滑稽な話だ。高額だから人を選ぶのか、人を選んだから高額になったのか。おそらくその両方なのだろう。
 受講するに当たって年齢制限はなかったが、私もそうだったように、就学前に参加するのが普通だったようだ。最初の集団生活を経験する場となる小学校に上がる前に、身につけるべき教養と考えられていたのだろう。
 就学前とはいえ、それぞれの家庭でそれなりの教育を受けてきているため、幼い子供ばかりであっても講義は静粛に進んだ。皆、講師の話に熱心に耳を傾け、席を立って歩き回る者はもちろん私語すら聞こえない。
 しかしそうはいってもやはり、十にも満たない子供ばかりなのだ。講師の話を聞き、何を言われているのかだいたいのところはわかっても、それに対して自分の解釈を加えることまではできない。
 リーダーとなるには常に自らを高める努力が必要だ。
 リーダーは常に毅然とし弱さを見せてはならない。
 リーダーは同情や憐憫などの感情に流されるべきではない。
 等々、どのような指針を示されても、それが正しい、間違っているという判断どころか、容易いとか難しいというような感想すら浮かばない。私とて、お父様のお言葉あるいはリーダーシップマニュアルの記述に同じようなものがあったと、それを思い出すのがせいぜいといったところだった。
 ただ一方的に与えられるだけ。
 しかし、聞いているのが精一杯という子供達の中にあって、ルイは異色の存在だった。不真面目というわけではないが、彼がこの講習会を面白がってはいないのは明らかだった。講師の話は聞くものの、何度も遮っては質問を浴びせ、時には驚いたことに反対の意見まで述べた。自分の考えを持ち、しかもそれを他人に対して提示できるほどに確立させる。あの場にあってそれだけのことができたのは、彼だけだった。
 特に彼が不快感を示したのは「リーダーは他人の意見に左右されてはいけない」というくだりだった。
 愚かな民衆はその場の状況や感情に流されやすい。特に危機的状況にあっては判断を誤る。ゆえにリーダーはそのような愚かな意見に惑わされることなく、自分の判断を貫かなければならない。危機的状況にあってこそ、リーダーとしての資質が問われるのだ。
 そのような話になったとき、彼は猛然と反論した。他人の意見を愚かだと切り捨てるような態度こそが愚かであると。たとえ他者の意見が間違ったものであったとしても、それを考慮に入れることで自らの考えをより深められることもあるだろう。また、その相手がなぜそのような誤った判断をするに至ったかその背景を考慮することも必要なのではないか。
 ルイは整然と自分の意見を述べたが、講師の冷然とルイの言葉を切り捨てた。そのようなものを考慮する必要がないほど正しい判断ができるようになってこそ、真のリーダーと言えるのだというのが講師の主張だった。

 

「おかしいと思わないか、メノリ」
 ルイは当然というべきか、全く納得していなかった。講義が一段落し、休憩に入っても憤懣は収まらないようだった。
「全てにおいて優れている人間なんていないんだ。自分にできないことを他の人に頼ってなんとかしてもらったって、それは全然恥ずかしいことなんかじゃないだろう?」
 今の私ならばルイの言葉に心から同意することができる。しかし当時の私には肯定も否定もできなかった。その判断がつかなかったのだ。
 しかしルイは特に私の意見を必要とはしていないようだった。ひとしきり納得できないと主張し終えると、ルイはまた別のことを口にした。
「僕はね、宇宙飛行士になりたいんだ」
 なりたいをなると言い換えても違和感はなかっただろう。それくらいルイの言葉は希望と熱意そして確信に満ちていた。
「それもね、新しい航路や惑星を開拓するための探査船に乗りたいと思っているんだ。まだ誰も行ったことのない場所に、一番に行ってみたい」
 夢を語るルイの目は前を向いていた。その先にあるのは講義室にかけられた巨大なスクリーン。しかし、ルイの目に映っていたのはきっとそれではない。将来彼が出会うであろう新しい星々が彼にはきっと見えていたのだ。
 休憩に入りざわめいていた回りの状況が急に遠ざかったように思えた。ルイの語る夢は私の心をもまた、遠い宇宙へと運んでいたのかもしれない。
「初めての場所に行くのに、自分の判断が絶対正しいなんてそんなこと信じられないよ。だからこそ仲間と一緒に考えて、一緒に決断していくべきだと思うんだ。リーダーであってもそうでなくてもね。僕一人じゃできないことも、信頼できる仲間とならやり遂げられると思う。僕は自分と同じくらい、仲間のことも信じたい。僕はそんなふうになりたいよ」
 彼があれほどまでにしっかりとした自分の考えを持っていたのは、明確な夢が彼の中にあったからなのだろう。星々への憧れと共に、自らの理想をも語った彼の言葉は、当時の私に新鮮な驚きをもたらした。理解は、正直なところできなかった。先生の言葉とルイの話のどちらが正しいとか正しくないとか、そういうことを考えるには私の心はまだ幼すぎた。ただ、ルイの話は私の胸に快く響き、広く明るい世界が目の前に広がったように感じた。
 彼はそこへ行くのだろう。
 果てしのない地平へ、顔を上げて迷いのない足取りで進む彼の姿が見えるようだった。まぶしくて私は無意識に目を細めていた。
「メノリ、君の夢は?」
 そう尋ねられても、示す答えのない私には、それしかできなかった。もちろんルイはそんな私を見下したりはしなかった。メノリならきっと素敵な夢に出会えるんだろうねと、彼は自然に笑った。

 

「ああ、そうだ。さっきの先生の話で一つだけ共感できるものがあったよ」

 

 休憩が終わるころ、ルイは不意にそう言った。
「危機的状況にあってこそ、リーダーとしての資質が問われるのだって、言ってたじゃないか。リーダーというよりも人としてだと思うけど、どんな状況にあっても常に自分を見失わずにいたいと思うよ」
 その言葉もまた、私の胸に長く残ったのだった。

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