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何もかも大きな森(サヴァイヴ) 

 今回もボツができたので、こちらに。

 


 

「シンゴ兄ちゃん、宿題でわかんないとこあるから教えてよ」
「だめ! シンゴお兄ちゃんはわたしと遊ぶんだから」
「宿題は大事なんだから、ぼくが先だよ」
「宿題は自分でやらなきゃだめでしょ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 左右から腕を引かれて、シンゴは軽く悲鳴をあげた。まだ幼い弟妹は手加減というものをしてくれない。それぞれはたいした力ではないとはいえ、容赦なく別々の方向から引っ張られてバランスを崩してしまったのだ。
「ぼくが先!」
「宿題は自分でしなさーい!」
「だから待ってってばー!」
 エスカレートしていく争い。しかし、シンゴの悲鳴は笑い混じりだ。バランスをとるのが難しいといっても腕が痛むほどではないし、何といっても可愛い弟妹のすることだ。兄として求められるこの状況はくすぐったい喜びと誇らしさはあっても、悪い気はまったくしない。
「あらあら、お兄ちゃんは大変ね」
「宿題なら、お父さんがみてやってもいいんだぞ」
 三人を見守る両親の顔もほころんでいた。
「シンゴ兄ちゃんの方がいいよ」
「お父さんに教えてもらったらいいでしょ!」
 父の提案に、年少の二人の声がきれいに重なった。そのタイミングのあまりの見事さに、次の瞬間には家族全員で笑い声を上げていた。

 

「もう、みんなしょうがないなあ」

 

 苦笑いでそう言って、そして何故か目を開けた。どうして自分は目を閉じていたのだろう。
 首をひねりながら起きあがり、次には部屋の意外な暗さに驚いた。
 さっきまではちゃんと明かりがついていたはずなのに、急に停電でもしたのだろうか。
 そんな考えが頭をよぎるころには、しかし、状況の把握は済んでいた。
 夢だったのだ。
 全部、夢だったのだ。
 まだ起きる時間にはなっていないようだった。部屋にはまだ月の光が差し込んでいる。
 月の光。それがここにあるということは、家族はここにいないということだ。ここは、家族のいるあのあたたかくて明るい家ではないのだ。
 うるさいくらいに部屋に満ちていたはずの笑い声はもう聞こえない。
 静かすぎる闇が重い。
 僕は一人だ。
 胸の内をせり上がってきた言葉が、涙と共にこぼれた。

 

 

 ――ずっと明るくふるまっていたシンゴが、いきなり沈んでしまったのは、家族の夢でも見たんじゃないかなと思いました。それで、夢を見て家族を懐かしむシンゴを書こうと、思ったのですよ。
 ところが、シンゴの家族の弟と妹の名前を始めとしてその情報が少ないので、夢の内容を上手に書けないんです。シンゴが寂しくてたまらなくなってしまうくらいの、懐かしい夢。それが作れなかった。
 それで、じゃあいっそのこと、夢を見て泣くシンゴを外から見る話にしようかと、カオル視点で書いたのがあれです。ベルだと、何かしら声をかけてしまうだろうし、ハワードは問題外。それにカオルはシンゴを気にかけている描写があるので、カオル側のきっかけも書けていいのかなと、それもあってあちらが採用となりました。

 どっちの出来もたいして変わらないといえば変わらないんですがね。

 

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